そろばんは数学の基礎になる教具

 将棋の藤井聡太くんの活躍で、急に注目が集まったモンテッソーリ教育。
 アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ワシントン・ポスト社主のキャサリン・グラハム、『アンネの日記』のアンネ・フランクなど、たくさんの有名人が、モンテッソーリ教育で育っている。
 教育法としては、百年ほどの歴史をもつメッソドであり、わたしも最初の著書である『モンテッソーリ・メッソド』から晩年の『吸収するマインド』まで愛読して、学習指導の参考にしている。
 マリア・モンテッソーリは、直感的な教具を好んでいて、積み木に類するものが多く、教具の中には、アバカス(西洋そろばん)や算木もある。
 最晩年の『吸収するマインド』を読み直していたとき、このそろばん通信の原稿を書かなければ・・・という思いが無意識に働いていたせいか、モンテッソーリの「感覚教具」の説明に、「わたしたちのそろばん指導をそのまま説明しているようだ」という驚きを感じた。
 まず、学びたい、という欲求。この学びたいという欲求をきっかけに、自分で選んだ学習に好きなだけ自分で取り組んでいく。親や教師の役割は、子どもたちを見守ることである。(じつは、手持無沙汰なように見える「見守る」ということに重要な働きがある。親や教師が見守って、子どもたちの取り組みを認めることによって、子どもたちの自己効力感が培われる)
 「そろばん」は、子どもたちの、「やるぞ」というスタートから、練習の終了まで、基本的に自分で取り組んでいく。そして、そろばんに取り組んでいるあいだ、子どもたちは「集中」を持続している。(そろばんの効果の一つが、集中力の養成である)
 モンテッソーリ教育の中心は、「自発性」と「集中」であり、
「子どもたちが正常化すれば、子どもたちは自発的に学び、自分の能力を発揮しながら、ぐんぐんと成長できる」
 というのがモンテッソーリの考えだ。
「子どもたちの正常化は、一つの作業への集中から生まれる。正常な状態への移行が起こるのは、手を使う作業の後、精神の集中がともなう作業の後である」(『吸収するマインド』から)
 モンテッソーリは、そろばんのような教具を「具体化された抽象」(数字という抽象概念をそろばんの玉で具体化している)と呼ぶ。そうした教具は、数学の基礎になるのだ。
 そろばんに集中して取り組むことは、モンテッソーリ教育の考え方にも合っている。じじつ、そろばんに集中して取り組んだ後、どの子どもの顔もしっかりとした表情になっている。
 子どもたちが本来持っている能力を引き出すためにも、そろばんに「集中」して取り組むことは有効だ。


学院長 筒井保明