教え方も学び方も変わっていく。

Changes in the Teaching and Learning Process

 狭山市智光山公園のこども動物園の目玉の一つは、天竺ネズミのお帰り橋である。小動物との交流スペースから天竺ネズミの小屋まで21メートルの細い橋を渡す。お帰りの時間になると、その細い橋の上をヒョコヒョコと連なって天竺ネズミが渡っていくのだ。
 橋を挟んで、たくさんの子どもたち、保護者のみなさん、若いカップルなどが、次々と小屋に戻っていく天竺ネズミを眺めている。このとき、若いカップルの女性が、「信じられないくらいかわいいわ。キュンとしちゃう」と甘い声を上げると、向かい側の5歳くらいの女の子が、まったく同じ口調で、「信じられないくらいかわいいわ。キュンとしちゃう」と明るい声を上げた。カップルの女性に5歳の女の子が同調したのは、ミラーニューロンという神経細胞の反応だろう。このように、ある状況下で、人に同調することによって、わたしたちは言葉を覚えていく。
 言語のイマージョン教育は、5歳の女の子がカップルの女性から学んだように、その言語の使われる状況のなかでその言語を習得する方法である。
 2019年4月開校、埼玉県初の中等教育学校である「さいたま市立大宮国際中等教育学校」は、英語のイマージョン教育を毎日の学校生活のなかに取り入れる。朝はAll Englishの時間で、校長先生をはじめとして、全員が英語で話すそうだ。つまり、全体として英語が話される状況をつくり、そのなかで英語力を磨いていく。当然、英語だけが話される状況では、誰もがThink in English(英語で考える)になる。日本語が入り込む余地がなくなるのだ。
 イマージョン(全身を水に浸す)というと、わたしは、イエスがヨルダン川の水に浸かって、ヨハネから洗礼を受ける場面を思い浮かべる。英語に全身を浸しているとき、人は、英語を吸収するために、英語を感得するしかない。数学に全身を浸しているとき、人は、数学の世界に入るために、数学を感得するしかない。摂理も、英語も、数学も、感得してはじめて本当に知ることができる。
 たとえば、友だちが誰かにNice to see you.と言っている。その誰かが君に手を差し出して、Nice to see you.と話しかけてきたら、君も反射的にNice to see you.と言って握手するだろう。この状況では、Nice to see you.と言うのだな、と自然に身につくわけだ。つぎに、初めて会う誰かに対して、英語の得意な友だちがNice to meet you.と挨拶しているのを見たら、君もきっとNice to meet you.というだろう。どういう場合がseeで、どういう場合がmeetか、その状況が教えてくれる。
 そして、お互いが顔見知りになったから、それぞれの教室に向かうとき、See you! といって別れる。
 See you soon. See you later. See you tomorrow. See you next week. See you again. というのも、その場の状況が決めるわけだ。経験すればわかることだが、イマージョンで学んでいるとき、日本語はほとんど浮かんでこない。日本語で考えてから、英語で話す、などということは起こらない。英語に対しては、あくまで英語で対応することになる。
 さいたま市立大宮国際中等教育学校は、国際バカロレアも教育の視野に入れている。イマージョン法自体は、イェール大学のFrench in action (1987)のような優れた教材が証明しているように、新しい方法ではない。日本の学校教育が採用しなかったのである。そういう意味では、大宮国際は、公教育の先頭に立つだろう。
 新しい時代を担う君たちにとって、教育が変わっていくことはよいことだ。
 さあ、未来に向かって、しっかり学んでいこう。

学院長 筒井保明