自分を信じよう!

Trust yourself !

 お正月を迎え、寺院や神社に出かける機会が増えるだろう。寺院のお御籤や神社の御神籤をひく人もいるだろう。一年の吉凶禍福をうらなうわけだが、吉凶はあざなえる縄のごとしで、裏表でしかない。
「よい」と思えば吉だし、「わるい」と思えば凶である。
 日本のおみくじの祖は、第18代天台座主、良源(912-985)。
 中国の観音籤が、如意輪観音の化身といわれる良源(元三大師)に託された。
 天台宗の大僧正・天海(1536-1643)が住職を務めた川越大師喜多院の護符も良源の変化である「豆大師」(魔滅大師)と「角大師」である。鬼のような姿は、悪魔降伏の行法のとき、良源が変身したものだという。
 元三大師のおみくじは、大吉・吉・小吉・末吉・凶をとりまぜて、一番から百番まで。江戸時代・明治時代の解説書を見ると、くじの引き方のルールが厳しい。まず身を清める。手を洗って、口をすすぐ。香をたいて、観音様を念じて、法華経普門品を読む。呪文を三百三十三回、礼拝を三十三回、おみくじの箱を三度頂戴して、願文を読む。そうして、箱を振って、おみくじを取り出す。
 江戸時代・明治時代の人たちが、これを実行して、おみくじを引いていたとは思えないが、ルールはルールである。きちんとやった人もいるだろう。
 さて、大吉が出れば、うれしいし、凶が出たら、やっぱりいやだろう。
 そこで大吉を一本引いてみる。
 第九十番 大吉
 一信向レ天飛。(一信、天に向かって飛ぶ。自分を信じれば、天に向かって飛ぶように実現する)
 秦川舟自帰。(秦川の舟、おのずから帰る。宝を積んだ舟がもどるように、望みがかなう)
 前途成レ好事レ。(前途、好事成る。いまやっていることが必ずいいことになる)
 応レ得レ貴人推レ。(まさに貴人の推を得べし。人に推されて、よいほうに向かう)
 第一句、生まれてから十五歳まで。第二句、十六歳~三十歳。第三句、三十一歳~四十五歳。第四句、四十六歳~六十歳。六十一歳より、本卦がえりで第一句にもどり、一句に十五年をかける。
 したがって、小学生、中学生の君たちは、第一句の「一信向天飛」である。
 「一信」は、「一心」であるから、君たちは、目の前のことに全力で取り組めばよい。
 自分の目標に向かって、自分の可能性を信じて、一生懸命に取り組んでいけば、天に向かって飛ぶときが来る。大吉が実現する最大の条件が「信じること」なのだ。
 もし、おみくじを引いて、凶だったら?
 元三大師は通称で、観音様の化身といわれる良源のおくりなは慈恵大師という。おみくじが観音様を本尊にしている以上、凶を引いた人が言動を慎めば、「凶は変じて吉となる」のが道理である。つまり、おおもとは大吉だ。
 じつは、くじを引く前の三百三十三回の呪文は、前もって、すべてのわるいことを妨げ、すべての望みをかなえるための呪文である。「おん はら た はん とめい うん。おん はん とま しん だ ま に しんば ら うん」
 しかし、呪文などいらない。
 君は君自身を信じよう。

学院長 筒井保明