積極的に取り組もう!

Positive Discipline

 おなじことに取り組む場合でも、「自分でやる」と「だれかにやらされる」は、決定的にちがう。
 根本的なことをいえば、「自分でやる」は積極的な訓練であるが、「だれかにやらされる」は消極的な訓練である。自分でやる訓練の結果は良くても悪くても自己責任であるが、だれかにやらされる訓練の結果は賞罰をともなうだろう。とくに罰をともなう場合は、行動の動機が「恐怖」であるから、ブレーキレバーを握りながら自転車に乗るようなものである。とても効率が悪い。
 わたしがたまたま目にしたロシア人が書いた教育法の入門書には、「授業前に生徒をリラックスさせること。そして、生徒が学びたい状態で授業を受けられるようにすること」と書いてあった。
 教育カウンセリングでは、「やりたい状態」want to と「やらねばならない状態」have to (should) に分ける。「やりたい状態」を子どもの特性、「やらねばならない状態」を大人の特性とする。
 子どもが「やりたい状態」であれば、とうぜん、自分から進んでやることになる。そして、だれかが止めないかぎり、子どもは取り組みを続けるだろう。子どもの力が大きく伸びるのは、このときである。
 ところが、子どもが「やらねばならない状態」であれば、子どもの本音は「やりたくない」である。だから、なんとかして、「やらないでいい状態」をつくろうとする。子どもは全力で創造的回避を試みる。たとえば、頭痛がしてきたり、お腹が痛くなってきたり、テキストが消えてみたり、親や先生に反抗してみたり・・・。
 さて、君が学習に取り組むとき、君は「自分でやる」であろうか、それとも、「だれかにやらされる」であろうか。
 自分でやっているかぎり、その取り組みはすべて君の成長につながる。自分を信じて、ひたすら目標に向かって進んでいけばよい。学習だけでなく、スポーツでも、芸術でも、さまざまな世界の達成者の原動力は、「自分でやる」である。だから、君が、学習に対して「自分の意志でやっている」といえるなら、安心だ。
 いっぽう、君が「だれかにやらされている」とずっと感じているなら、危険である。君の本音は「こんなこと、やっていられない。なんとかして、やらないでおこう」であるから、自然に、君の目の前にさまざまな厄介ごとが生じてくる。
 机の上のコップがひっくり返って、ジュースがこぼれた。うしろに背をそらせたとたん、椅子ごと、ひっくり返った。テキストを見ているうちに、だんだんと頭痛がひどくなってきた。お腹の調子がわるくなって、なんどもトイレにいった。となりで本を読む弟をじゃまして、弟とケンカになった。きのう買ったマンガをがまんできないほど読みたくなった・・・。
 君は、どうしても学習に集中することができない。
 君はあせる。またお父さんにきつく叱られるぞ!
 じつのところ、これらの厄介ごとは、君の創造的回避が生み出している。君が「だれかにやらされている」と感じているかぎり、君は無意識に「できない状態」をつくりだしてしまう。あまりにもったいない時間ではないか。
 でも、解決の方法はある。
 「自分でやる」という積極的な訓練を自分に与えることだ。
 しばらくのあいだ、学習に取り組む直前に、「やるぞ!」と自分に気合を入れることを続けてみよう。

学院長 筒井保明