子年は成長の一年です。

 二〇二〇年は子年です。子年には、ネズミを動物として当てます。
 紀元前二〇〇年代の秦の時代の竹簡に「子、鼠也」と書かれているそうですが、理由を説明していません。漢字の世界では、音が共通する漢字は意味が関連すると考えます。江戸時代に書かれた『和漢暦原考』(石井光致)を見ると、『「子」は「滋」(繁殖・生長)「孳」(繁殖)であり、つとめて止まず、ますます増える』とあります。みなさんが「子の字があらわす、つとめて止まず、ますます増える動物はなあに?」というクイズに答えるとしたら、どんな動物を思い浮かべるでしょうか?
 十九世紀までであれば、中国人に限らず、日本人でも、ヨーロッパ人でも、「ネズミ!」と答えたのではないでしょうか。それほど、ネズミはどんどん増えるのです。
 さて、和算・そろばんの世界で、ネズミといえば、まっさきにネズミ算が思い浮かびます。
 「正月に、ネズミの父母が子を十二匹生む。親と合わせて十四匹。このネズミたちが一組の父母になって、二月に十二匹ずつ生む。合計で九十八匹。このように、親も子も孫も曽孫も、毎月、十二匹ずつ子ネズミを生むと、十二月には合計で何匹になるだろうか? ※月々に生まれる十二匹はオス・メス半数ずつ」
 もとは江戸時代にまとめられた塵劫記(じんこうき)という和算の教科書に載っているのですが、明治・大正になっても、算術や珠算の教科書に取り上げられています。
 月々を計算していくと、
 一月 親(父母)ネズミが子ネズミ12匹(オス6匹・メス6匹)を生んで、合計14匹。
 二月 生まれた子 84匹 合計98匹。
 三月 生まれた子 588匹 合計686匹。
 四月 生まれた子 4,116匹
    合計4,802匹。
 五月 生まれた子 28,812匹
    合計33,614匹。
 六月 生まれた子 201,684匹
    合計235,298匹。
 七月 生まれた子 1,411,788匹
    合計1,647,086匹。
 八月 生まれた子 9,882,516匹
    合計11,529,602匹。
 九月 生まれた子 69,177,612匹
    合計80,707,214匹。
 十月 生まれた子 484,243,284匹
    合計564,950,498匹。
 十一月 子 3,389,702,988匹
     合計3,954,653,486匹。
 十二月 子 23,727,920,916匹
     合計27,682,574,402匹。
 となり、答えは、二百七十六億八千二百五十七万四千四百二匹になります。
 もちろん、珠算では、こんな遠回りはしません。わたしの手元にある『新選珠算実習書』(大正六年)には、「まずこの算法は実(被乗数)に二匹を置き、法(乗数)に七と置き十二度乗ずれば知るなり」と説明してあります。数式であらわせば、

 こういった考え方でも珠算と数学はつながっています。珠算に加えて、数学的な発想ができれば、さらに計算は速くなるのです。
 陰陽の思想でいいますと、子年は陽が兆す年です。みなさんにとっては成長の年になります。
 いい一年にしていきましょう。

学院長 筒井保明