珠算式暗算は脳の働きを高める。

 鉛筆やそろばんを使わない計算を暗算といいます。
 鉛筆を使わない暗算には、九九や円周率や平方根の数の暗記から、基礎暗算、実用暗算、補助暗算、予備暗算のような種類があります。なんども練習して覚えるので、能力暗算ともいわれますし、暗記的計算ともいわれます。
 ちなみに、英語圏の学生は、円周率の近似値を覚えるのに、Yes, I know a number.(はい、数字を知っています)と覚えます。アルファベットの数を数えれば、Yes, (3.) I (1) know (4) a (1) number (6) で、3.1416 ですね。
 いっぽう、珠算式暗算は、頭にそろばんを思い浮かべて計算することです。
 ちょっとそろばんを思い浮かべてみてください。そうして、そのそろばんの玉を弾いて計算してみてください。
 一+三=
 四+六=
 一〇+一五=
 二五+三二=
 ふだん、そろばんをしっかり練習しているみなさんなら、きっとできるはずです。
 さて、みなさんが思い浮かべたそろばんのことを、神経科学の世界では、メンタル・ピクチャア(mental picture ・心的イメージ)といいます。
 実物を見たことがあれば、かんたんです。
 つぎの言葉を思い浮かべてみましょう。
 いぬ
 ねこ
 かえる
 おかあさん
 そろばん
 どうですか。
 思い浮かびましたか。
 メンタル・ピクチャアは、自分が好きなイメージでかまいません。「いぬ」がブルドッグであっても、チワワであっても、セントバーナードであってもいいのです。  いぬを思い浮かべたら、そのいぬを走らせてみたり、ジャンプさせてみたり、骨をくわえてもどらせてみたりしてください。
 できましたか。
 ねこでも、かえるでも、おかあさんでも、そろばんでも、おなじようなことができるでしょう。ねこなら、ねむらせてもいい。かえるなら、およがせてもいい。おかあさんなら、料理をしてもらってもいい。そろばんなら、パチパチと音を立てながら指で玉を弾いてもいいでしょう。
 メンタル・ピクチャアを思い浮かべて、それを動かすのは、脳の前頭前野の働きです。この働きを強めることができると、みなさんの記憶力や学習能力はグンと高まります。
 パソコンやパッドの画面でそろばんを操作するソフトウエアもありますが、わたしは推奨しません。
 実物のそろばんを使って計算し、そのそろばんをメンタル・ピクチャアとして思い浮かべて計算(つまり暗算)することのほうが、脳のトレーニングとしてもっと有効でしょう。なぜなら、ふだん実物のそろばんを使って練習していますから、視覚だけでなく、聴覚も、触覚も、そろばんを舐めたり嗅いだりすれば、味覚や嗅覚もイメージに参加することができるからです。当然、メンタル・ピクチャアの臨場感が強くなりますから、みなさんはリアルにメンタル・ピクチャアのそろばんを操作することができるでしょう。

学院長 筒井保明