Day: February 6, 2020

そろばん通信|2020年3月号

珠算式暗算は脳の働きを高める②  珠算式暗算は、前頭前野でそろばんのメンタル・ピクチャアを操作することです。  前頭前野の働きが人の知能ですから、珠算式暗算は、実効性のある脳トレであるといえます。脳トレのソフトウエアはいろいろありますが、算数的能力・数学的能力をつちかうには、やっぱり珠算式暗算です。  昭和の初頭、名古屋市新道尋常小学校校長の榊原孫太郎先生が珠算と珠算式暗算を児童たちに指導しました。その実践に基づいて、昭和七年に『一元的算術教育』を出版します。なにごとも論より証拠ですから、この書物に書かれていることは貴重です。  榊原先生の意見をみなさんにわかりやすいようにまとめてみましょう。 『暗算には、能力暗算と珠算式暗算のふたつがあります。小学校で課せられるのは能力暗算ですが、覚えるまでに労力と時間がかかるうえに、数が大きくなると、けっきょく珠算か筆算にたよるしかありません。ですから、能力暗算は、実用向きとしては不便なのです。  珠算式暗算は、脳に思い描いたそろばんを使って計算する方法です。そろばんを抽象的にイメージして計算しますから、実際にそろばんを使って計算すること以上に、正確に速く、五六桁以内の加減乗除はかんたんです。  おどろく人もいますが、そろばんを弾くことができる人であれば、だれでも可能ですし、難しいことではありません。暗算の練習をしていないから、できないだけです。  ためしに目を閉じて、そろばんを思い浮かべて、2+3の計算を思い描いてみれば、おぼろげであっても梁(はり)の上の五玉を下ろし、梁の下の玉二個を払って、5という答えを得るでしょう。  珠算式暗算の基礎は、数をそろばんの形にして脳に思い浮かべることです。手始めに、残像を利用しましょう。たとえば、そろばんに二十六と置いて、約三十秒、これを注視して、目を閉じれば残像が残ります。(脳の記憶域のワーキングメモリーの働き)この残像を維持しながら、計算していくと、順次、玉の変化したそろばんのイメージが頭に残ります。答えは、脳に浮かんでいるそろばんを読めばいいのです。一学期のあいだに、四桁・五桁くらいのイメージができるようになります。  そろばんのイメージの確かさをチェックするためには、たとえば、3467を脳に描いたそろばんに置き、それを下の桁からいわせると、7643といえますし、基数の和を問えば20と答えられます。そろばんを脳に描けているならば、かんたんです。  じゅうぶんにイメージ練習ができたならば、一桁の補数練習、二桁の補数練習を行い、加法の練習から始めましょう』(以上、引用および書きかえ)  このあと、人の記憶に、視覚型、聴覚型、筋肉型、混合型等があることが説明され、榊原先生の実践では、多くの児童が視覚型と筋肉型の混合であったことが報告されています。筋肉型というのは、空中にそろばんがあるかのようにイメージして、手指を動かしながら暗算するタイプのことです。  児童たちのうち、視覚筋肉両型の混合型がもっとも上達したようです。そういっても、手指を動かすような動作は初歩のうちで、熟練した児童たちは、よそ見をしながらでも、笑いながらでも、落書きをしながらでも、正確に、敏速に計算していて、外から見ただけでは計算しているように見えなかったようですから、たいしたものです。 学院長 筒井保明

学院長からのメッセージ 2020 February

もっとすごい自分になる! Be Your Better Self.  目の前に自信を失っている生徒がいたら、それがだれであっても、どんな状況であっても、無条件で「君はできるのだから、やってみよう」と励ます。「自分はできる」と信じれば、だれでもできるようになるからだ。  もちろん、効率的な学習習慣や効果的な学習方法など、具体的なことも教える。  けれども、「自分はできない」と思い込んでいるとき、どんな方法も役に立たない。思い込みの極端な例が強迫観念で、やる前から「できないとばかにされる。できないと叱られる」と恐れや不安を感じておびえてしまう。このとき、脳の偏桃体がネガティブな感情を増幅して、情報処理をつかさどる脳の海馬の働きを妨げるので、けっきょく学習することができない。  たとえば、アルプスの少女ハイジは、文字が読めなかった。令嬢クララの家庭教師が必死に学習を詰め込もうとしても、ハイジは学習を吸収することができなかった。なぜなら、羊飼いのペーターに「文字を読むことはできないよ」と何度も何度もいわれたので、「文字は読めない」という思い込みが根付いてしまっていたからだ。家庭教師も「この子には無理だ」と思いながら教えていた。  家庭教師から「ハイジは学ぶことができない子どもだ」と報告されたクララの祖母は、「ハイジはかならず読めるようになる」と反論した。  クララの祖母は、笑顔でハイジに近づくと、アルプスに関する絵本を手渡して、まず「読みたい」という気持ちをハイジから引き出した。そして、「読むことはできる」という確信をハイジに与えてから、読むことを教えた。すると、ハイジは、みるみるうちに本が読めるようになった。  ハイジの学習を妨げていた思い込みをメンタル・ブロックという。「自分はできない」という思い込みがメンタル・ブロックだ。  学習にかぎらず、スポーツでも、芸術でも、「自分はできない」というメンタル・ブロックが最大の障害物である。「できないこと」は、だれでもいやになる。いやになったら、やりたくなくなる。やりたくないことは、なかなかできるようにならない。遅かれ早かれ、多くの人たちが「できないこと」から逃げ出してしまう。  クララの祖母がすばらしい教育者であることは、最初に「読みたい」という気持ちをハイジから引き出したことでわかる。だれでも、やりたいことは、進んでやるだろう。この自発性が、学習のカギだ。  つぎに、「かならずできる」という確信を与えたことも重要だ。教師が「この生徒はかならずできる」という確信を持っていれば、目の前の生徒も「わたしはできる」と自然に確信できる。これは非言語的な要素なので、口先で「君はできるよ」といってもあまり効果はない。クララの家庭教師は「ハイジには無理だ」と思って教えているから、ハイジはできるようにならなかった。クララの祖母は「ハイジはできる」と確信しているから、ハイジはできるようになった。ハイジがメンタル・ブロックを外すことができたのは、クララの祖母の確信度のおかげである。  わたしたちは、君たち一人ひとりがかならずできるようになると確信している。  「もっとすごい自分になる!」(Be your better self.)というのは、新年度のテーマの一つだ。君たちは成長過程にあるので、君たちのベストはまだまだ未知である。現在の君より、未来の君はもっとすごい君であるはずだ。  「できる」という確信をもって、しっかり取り組んでいこう。 学院長 筒井保明