そろばんで頭脳をきたえる!

 日本で「右脳」という言葉を広めたのは、日本医科大学教授であった品川嘉也博士でしょう。ご本人は、交流があったことから、日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士の最後の弟子と称していました。『意識と脳』(1982)ほか、多くの著作を読み直してみますと、大胆な、鋭い考察が多く、いまでもじゅうぶんに通用します。
 現在では、すべての人に共通して右脳と左脳が分化しているわけではなく、「脳の機能のかたよりとして、左脳で言語をつかさどる人が多く、右脳でイメージをつかさどる人が多い」とします。また、女性よりも男性のほうが脳の分化がはっきりとしているようです。
 そろばんが右脳を活性化するという主張の根拠も、じつは品川博士の実験に基づいています。
 「右脳のイメージを使うことによって、脳の情報処理速度が飛躍的に上昇すること」を証明する実験に「そろばんの達人たち」が使われたのです。
 数字や数学も一種の言語ですから、「九九は数を操作しているのではなく、言語操作にすぎない。つまり、九九の計算は、八十一個の熟語にすぎない」ということです。ですから、筆算は言語操作である、ということになります。計算は言語中枢を使いますので、左脳的ということです。
 これに対して、品川博士は、脳波学的に、
 「そろばんの達人たちは、計算しているときに言語中枢をほとんど使わず、右脳で計算している。頭のなかにそろばん球のイメージを浮かべて、イメージ操作をしながら右脳による計算をしている」
 と主張します。これは珠算式暗算を習っているみなさんなら、当たり前の練習ですね。
 品川博士の言葉を借りれば、そろばんの達人たちは、答えを「見ている」のです。
 さて、そろばん熟達者のAさんの脳波分析をおこなったところ、達人がかけ算見取り算の暗算をしているとき、ベータ2波(16.5–20Hz, 脳の思考活動の部位に強くあらわれる脳波)が右脳側と右後頭部(視覚野)に強く出ました。
 また、達人のBさんが、読み上げ算の暗算をおこなったところ、同様の結果になりました。読み上げ算にもかかわらず、聴覚野に相当する側頭部や言語中枢に強い脳波は出ませんでした。Bさんは、「計算中、ことばとして意識することはなく、言語は浮かんでこない。そろばんの球が浮かんで見える」といっています。この脳波の測定結果から、「そろばんは右脳を活性化する」といわれるようになりました。
 たしかに、珠算式暗算はイメージ操作ですから、言語操作はしません。そして、イメージ操作は、言語操作よりも圧倒的に速いのです。
 そろばんの達人たちだけでなく、アインシュタインなどに代表される物理学者たちや数学者たちも、イメージを操作して考える傾向が強いのです。数式で考えるわけではなく、イメージで考えて、数式で表現しているといってもいいかもしれません。
 そろばんは、みなさんの頭脳をしっかりと鍛えます。
 ぜひ楽しくそろばんの練習に取り組んでください。

学院長 筒井保明