できるだけのことをやる!

You can do it!

 人は未来に生きる。人の目標が未来にある以上、人は未来に向かって生きている。
 神経科学の世界では、人の認識が外界の刺激に対して必ずほんの少し遅れるので、「人は過去に生きている」と表現するけれど、それは人の認識を現在として考えるからだ。たとえば、君の近くで爆発が起きたとする。閃光と爆音が起きた瞬間に対して、ほんの少し遅れて人は反応するので、君が爆発に驚いたとき、爆発はすでに過去になっている。
 でも、これは、わたしたちの認識の問題であって、わたしたちの生き方ではない。
 君が学習するのは、100%、未来のためであって、過去のためではないだろう。「2週間後のテストでしっかり得点したい」という近い未来があるから、「1年後に志望校に合格したい」という少し遠い未来があるから、「大学を卒業したら、エンジニアになりたい」というやや遠い未来があるから、必要なことに取り組める。学習にかぎらず、「見たい」「聞きたい」「食べたい」「プレイしたい」など、その対象はすべて未来の時間に属している。いいかえれば、すべての目標は未来に存在している。
 受験生にとっては、近い未来に「入学試験」がある。そして、合格したいから、君は学習している。目標を達成するために、君は、毎日、できるだけのことをやろうとしている。どのくらい学習したらいいのだろうか? ここまでくると、できるだけのことをやるだけだ。
 できるだけのことをやることは、未来の君につながる大事な経験になる。その結果がどのようなものであっても、それは、君にとって、一つの通過点だ。重要なのは、君が目標に向かって、「一生懸命に取り組んだ」という事実だ。この経験で培われた力は、「生きる力」そのものである。君の人生はまだまだ続く。君に将来の目標があるかぎり、この力は君を大きく前進させていくだろう。
 ところで、入学試験は、スポーツの試合や芸術のコンテストとおなじで、人の心身のコンディションによって結果が大きく左右される。体調不良や極度の緊張やアクシデントによって、実力が発揮されないことも少なくない。だから、模擬試験などの成績と実際の入試結果はかなりくいちがう。模試では合格の可能性が安全圏や合格圏であったにもかかわらず極度の緊張で失敗してしまったり、逆に模試では努力圏や再検討であったにもかかわらず開き直って高得点で合格したり、教師の予想と大きく異なることも多い。試験当日のコンディションの影響は、ものすごく大きいのだ。
 まず体調管理に関しては、生活習慣を正すことが必要である。早寝早起きが基本。そして、学校生活を送っている以上、夜12時前に就寝する。睡眠を誘発するメラトニンの分泌を妨げるテレビやスマートフォンやパソコンなども控える。朝、起きられなくなるのは、夜更かしやゲームなどによって、成長ホルモンが出なくなることが原因である。健康にとって(学習にとっても)、熟睡することがもっとも重要だ。
 つぎに緊張に対する対策は、もし不安であったら、先に何度か試験会場に足を運んでおくといい。試験当日は、開門時間に合わせて、早めに試験会場に行き、その場の雰囲気になじんで緊張を解いておく。試験前にリラックスして、試験に臨む。そうすれば、試験中は適度な緊張状態(集中状態)になるので、実力を発揮できるだろう。一つ試験が終わるたびに、次に備えて、リラックスする。試験に集中する。公立高校の場合、リラックス→集中を5回、くりかえす。
 アクシデントというのは、たとえば、試験中に、極度の緊張から倒れる生徒がいたりする。そういうときには、手を上げて試験会場の先生に知らせて、君はすぐに試験にもどろう。
 できるだけのことをやっていれば、君は、試験だけでは終わらない、ほんとうの力を手に入れているだろう。

山手学院 学院長 筒井 保明