そろばんは小学生にふさわしい!

 お年寄りの回想録を読んでいたとき、
「不思議なことに、何十年もそろばんを手に取っていなかったのに、小学生のときに身につけたそろばんや暗算は、いまもやろうと思えば、できるのですよ」
 というセリフがありました。
 たしかに、そろばん検定を取得している大人たちに聞いても、
「ずいぶん長いあいだ、やっていませんが、いまでも自然にできますね。暗算は日常で使っていますから当然かもしれませんが、そろばんもだいじょうぶです」
 というような返答が大半です。
 ときどき、
「もう忘れちゃったかな。でも、ちょっと練習すれば、いけるかな」
 という弱気な発言もありますが、「ちょっと練習すれば」というところにすこし自信が見えますね。
 そろばんだけでなく、小学生のときにしっかりと身につけた能力は、大人になっても失われることはないようです。水泳やバスケットボールのようなスポーツでも、ピアノやバイオリンのような音楽でも、小学生のうちに身につけたことは、大人になってもできるのです。
 いっぽう、大人になってから、小学生とおなじ学習をしようとすると、そろばんでも、スポーツでも、芸術でも、大人はなかなか上達しないのです。途中であきらめてしまう大人のほうが多いかもしれません。なにごとでも身につけるためには単純な反復練習が必要なのですが、小学生には耐えられても、多くの大人たちは耐えられないからです。
 単純な繰り返し練習が必要な習い事やスポーツは、小学生のうちにやっておくのが正解でしょう。
 なかなか新しいことが身につかない大人たちを見て、クリティカルエイジやクリティカルピリオド(学習の臨界期)のような仮説が立てられたのではないでしょうか。学習の臨界期というのは、ある年齢を超えると、新しい学習が身につけられないのではないか、という考えです。たとえば、音声認識(絶対音感など)であれば5歳くらいまで、言語能力であれば8~13歳くらいまで、という仮説です。
 全体の傾向として、大人たちを見ていますと、クリティカルエイジやクリティカルピリオドが存在するような気がしますが、もちろん例外的な大人たちもいますから、やはり仮説ですね。
 そういっても、そろばんに関していえば、はじめてそろばんを習う小学生と大人では、小学生のほうがまちがいなく上達が速いでしょう。
 お年寄りの回想のとおり、小学生のときに身につけた能力は、ずっと長持ちします。
 そろばんの練習は、小学生にふさわしい学習です。

山手学院 学院長 筒井保明