そろばんは練習だ!

 そろばん学習の基本は「練習」です。そろばんは、「勉強」ではありません。
 「勉強」ということばは、もともと漢語(中国の昔の言葉)で、『礼記』や『中庸』という書籍に出てきます。みなさんにわかりやすくいえば、「勉強」は「しぶしぶやる」「いやいややる」「無理してやる」といった感じです。ですから、「勉強しろ」といわれると、みなさんも、いやな気持ちになるでしょう?
 ちなみに関西の問屋街などで、「勉強してや」というと、「安くして」という意味になります。いまでは年配の人しか使わないようですが、「勉強してほしいなあ」といわれた問屋の主人は、そろばんの玉を弾いて、「これで、どないや」とそろばんの盤面を客に見せます。望みの金額になっていると、客は笑顔になって、交渉が成立します。「おおきに(ありがとう)」です。でも、値切られた主人の心のなかは、「しぶしぶ」「いやいや」「無理して」でしょう。だから、「勉強」というわけですね。
 いっぽう、「学習」ということばも漢語で、『礼記』に出てきます。わたしたちには、中学校で学ぶ『論語』の冒頭「学びて、ときにこれを習う。また、悦ばしからずや」でお馴染みのことばです。孔子は「学習って、たのしくて、うれしいものだよね」といっています。ですから、わたしは、「勉強」ということばを使わず、「学習」ということばを使います。
 ともあれ、そろばんは、けっして「勉強」ではないことをわかってください。
 そもそも「しぶしぶ」「いやいや」「無理して」そろばんを練習しても、思うように上達しません。学校の学習であっても、スポーツや習い事であっても、「しぶしぶ」「いやいや」「無理して」やっても、なかなかうまくなりません。
 なぜなら、みなさんが「しぶしぶ」「いやいや」「無理して」やっているとき、みなさんの脳は、感情をつかさどる偏桃体という部分が優位になっていて、学習をつかさどる海馬という部分にブレーキがかかっています。つまり、「しぶしぶ」「いやいや」「無理して」は、ブレーキをかけながら、自転車をこぐようなものです。当然、前に進みません!
 これが、「勉強」が非効率で、「学習」が有効な理由です。
 さて、そろばんの学習の秘訣は、「少しずつ何回も」です。そろばんの計算方法を理解したら、あとは練習を重ねます。練習すればするほど、そろばんの計算は、正確で速くなります。
 そろばんの計算方法を理解した段階では、脳の神経細胞が情報伝達経路としてシナプス結合した状態です。このとき、神経細胞の軸索にまだ髄鞘(ミエリン鞘)はできていません。おなじ刺激をくりかえしますと、髄鞘化され、情報の伝達速度が加速されます。
 そろばんも、学習も、スポーツも、芸術も、はじめのころは、意識的に取り組むしかありませんので、ゆっくりと時間がかかります。ところが、おなじ刺激をくりかえしているうちに、おなじ動作なら、どんどんと速くなります。これが練習の成果です。
 もし、みなさんが、自分のそろばんの速度に満足していないなら、まだまだ練習が足りないだけです。正確で速いそろばんは、練習によって実現できます。
 そういっても、最初は、ていねいに基本を学ぶこと! まちがえて学んでしまうと、練習しても成果が上がりません。「学びて、ときにこれを習う」です。
 たのしく学んで、「少しずつ何回も」そろばんを練習しましょう。

山手学院 学院長 筒井保明