春いちばんのステップ!

The First Step in spring


 春一番というのは、春先に吹く南寄りの強風のことだ。春一番が吹くと、だんだん暖かくなってくる。学生であれば、新しい学年に期待がふくらむだろう。
 この春、君たちが、自分の目標にむかって大きな一歩を踏み出すことを願って、春期講習のタイトルに「春いちばんのステップ! 目標にむかって、力強く前進しよう‼」と書いた。
 さて、君たち一人ひとりに「かけがえのない価値=わたし」がある。
 禅の世界で、「わたしって、なんだ?」と問いつめれば、「わたしは、わたしにあらず」と答えるだろう。ひっくりかえしていえば、「わたしはすべてだ」「わたしは世界だ」ということでもある。
 禅問答はややこしいけれど、論理的には、「わたし」という存在は、「わたし」以外のすべての「ものごと」の関係性のなかに存在しているのだから、けっきょく、「わたし」は、「わたし」以外のすべてである。
 「ものごと」は、「もの」と「こと」に分かれる。「もの」は、空間に位置を占めているもの。「こと」は、時間に位置を占めていること。中国の古典『淮南子』に「往古来今を宙と謂い、四方上下を宇と謂う」とあるから、「宇」が空間で、「宙」が時間になる。つまり、宇宙とは、空間と時間のことだ。
 「ものごと」は、この宇宙に位置を占めている。君たち自身も「ものごと」にちがいないので、やはり、この宇宙に位置を占めている。宇宙では大きすぎるというなら、この世界に位置を占めている。君たちは、自分の重要さや自分の価値に気づいているだろうか?
 ウィトゲンシュタインという哲学者は、『論理哲学論考』の第1項で、
1 世界は、できごとであるすべてだ。
1. 1 世界は、「もの」ではなく、「こと」の合計だ。
1. 11 世界は「こと」と「すべてのことごと」によって決定される。
 と思考を展開している。
 もし君たちが空間に存在しているだけなら、君たちは「もの」でしかない。でも、君たちは考えるし、行動する。つまり、時間のなかにも存在している。そして、君たちが行う「こと」や「ことごと」が世界を決定する要因になっている。
 したがって、君たちが学習することも、観点をかえれば、自分のためだけでなく、世界のためになる。だからこそ、君たちは自分のかけがえのない価値を生かさなければならない。
 君の前進は、世界の前進につながる。君が向上すれば、世界も向上する。
 ずいぶん大げさな話になってしまったようだけれど、バタフライ効果という表現があるように、ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を起こすのだ。
 君が一生懸命に学習したら、いったい世界でなにが起きるだろうか?
 さあ、春いちばんのステップを踏み出そう!

山手学院 学院長 筒井 保明