Archive List for そろばん通信

そろばん通信|2020年5月号

学校が休みのあいだ、君がやるべきこと  新型コロナウイルスのために、世界中が混乱しています。とくにヨーロッパの国々は、歴史的にペストという疫病に苦しめられてきましたので、多くの人たちが強い恐怖を感じているでしょう。  緊急事態によって、学習の機会を失っている子どもたちが世界中にいます。  しかし、学校が休みだからといって、テレビやゲームやユーチューブの動画にたくさんの時間を費やしてしまうのは、自分の可能性の発展を止めてしまうことです。  なぜ、君たちにとって、テレビやゲームやユーチューブの動画は、よくないのでしょうか?  答えは、テレビやゲームやユーチューブの動画は、受け身でもじゅうぶんに楽しめてしまうメディアだからです。受け身で楽しめますから、あっというまに大量の時間が流れてしまいます。そして、受け身であるかぎり、君たちの思考力や創造力が鍛えられることはありません。  視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のうち、脳では視覚野がいちばん大きいので、テレビやゲームやユーチューブの動画は、わたしたちの脳をかんたんに独占することができます。いいかえれば、わたしたちは、自分の意志を使わずに、いつまでもラクラクと見続けることができます。  いっぽう、音だけのラジオ、文字だけの本、スクラッチなどは、受け身では楽しめないメディアです。ラジオであれば、自分の意志で音や声を聴かなければなりません。意識しないと、聞き逃して、話がわからなくなります。  本はもっとたいへんです。自分で意志をもって読まないかぎり、一ページも読むことはできません。受け身で本を読める人はいないはずです。  スクラッチもおなじです。自分で意志をもってプログラムしないかぎり、なにも始まりませんし、なにも動きません。ゲームは、誰かが組み立てたものをプレイすることですが、スクラッチは自分で組み立ててプレイするものです。自分で組み立てるためには、意志や思考が必要です。  スクラッチを開発したMITのミッチェル・レズニック博士は、ゲームでは育たない創造的思考力を培うためにスクラッチを推進しています。「ゲームに時間を使うなら、スクラッチをやろう!」ということです。  そろばんも、君たちが意志をもって使わないかぎり、そのままですね。そろばんが自分で計算するなんてことは、ありません。  じつは、小学生のみなさんの学力や能力を高めるものは、すべて自分でやらなければならないことばかりです。「読み・書き・そろばん」といいますが、読むことも、書くことも、そろばんの玉を弾くことも、自分の意志を必要としますね。すべて能動的な学習です。  学校が休みのあいだ、君たちがやるべきことは、この能動的な学習です。  小学生の学習の基本は音読ですから、毎日、音読してください。音読することによって、音読された言葉が自分の言葉になっていきます。そして、たくさん読書することです。  また、漢字を覚えたり、文章を書いたりしてください。さらに、絵をかいたり、工作したり、スクラッチしたりしてください。  もちろん、毎日、そろばんを練習してください。暗算に取り組んでいる小学生は暗算も練習してください。  能動的な学習によって、君たちの力はどんどん成長していきます。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年4月号

珠算式暗算は脳の働きを高める!③  珠算式暗算の利点については、①②で書きました。  では、西洋の人たちは、どのように暗算をするのでしょうか?  西洋の人たちの暗算は、珠算式暗算にも応用できる部分もあり、数学的興味も尽きません。  アメリカで暗算といえば、知る人ぞ知るアーサー・ベンジャンミン博士(Arthur T. Benjamin, Ph.D.)です。『マス・マジック』という暗算の教材は、世界中で売れました。日本でも販売されましたので、保護者の方の中にも購入した方がいらっしゃるかもしれません。わたしもかつて購入した一人ですが、現在のベンジャミン博士の講義を視聴してみますと、ますます磨きがかかっています。その講義の内容をかいつまんでみましょう。  暗算は、英語でメンタル・マス(Mental Math)、メンタル・カルキュレーション(Mental calculation)といいます。  暗算の第一段階としては、左から右へ(left to right)で計算すること。たとえば、2300+45であれば、自然に左から右へ、2345と計算するように、「左から右へ」がすべての計算において「より自然で速い」というのがベンジャミン博士の主張です。  暗算は、単純化のプロセスであり、たとえば、432×3は、3×400=1200、3×30=90、3×2=6;1200+90+6=1296と、最も大きい数から最も小さい数へと計算します。  54×7であれば、暗算の場合、7×50(350)と概算して、7×4(28)を足します。350+28=378となります。  ベンジャミン博士は、暗算や数字のおもしろさを伝えるために、さまざまな数字のマジックを紹介しながら、暗算の練習をうながします。  九九の9の段では、9×2=18(1+8=9)、9×3=27(2+7=9)、9×4=36(3+6=9)、9×5=45(4+5=9)、9×6=54(5+4=9)、9×7=63(6+3=9)、9×8=72(7+2=9)、9×9=81(8+1=9)で、9の段の答えの数字を足すと、みな9になります。  11のかけ算も数字のマジックで、2桁の数字に11をかけるときには、かけられる数字のまんなかにその数字の合計がはさまります。  たとえば、23×11 → 2+3=5 答えは253。同様に、35×11 → 3+5=8 答えは385。  41×11は? 同じように考えれば、4+1=5ですから、451ですね。  ところで、48×11のように、4+8=12 足した数が二けたになった場合はどうしたらいいでしょうか?  4(12)8の場合は、(12)の1を繰り上げて、528とします。85×11なら、8(13)5ですから、935です。  では、3桁の数字に11をかける場合はどうでしょうか?  たとえば、314×11 → (3+1=4)(1+4=5)→ 314のまんなかの数字に置き換えて3(4)(5)4、答えは3454となります。425×11を同じようにやってみてください。暗算でできましたか? 4675ですね。  ベンジャミン博士は、アメリカ人ですので、00をハンドレッドhundredと読み、たとえば1100という数字は、イレブン・ハンドレッド、3300という数字はサーティ・スリー・ハンドレッドと表現します。わたしは、最初、とまどいました。  ともあれ、メンタル・マス(暗算)は、左から右へ(Left to Right)です。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年3月号

珠算式暗算は脳の働きを高める②  珠算式暗算は、前頭前野でそろばんのメンタル・ピクチャアを操作することです。  前頭前野の働きが人の知能ですから、珠算式暗算は、実効性のある脳トレであるといえます。脳トレのソフトウエアはいろいろありますが、算数的能力・数学的能力をつちかうには、やっぱり珠算式暗算です。  昭和の初頭、名古屋市新道尋常小学校校長の榊原孫太郎先生が珠算と珠算式暗算を児童たちに指導しました。その実践に基づいて、昭和七年に『一元的算術教育』を出版します。なにごとも論より証拠ですから、この書物に書かれていることは貴重です。  榊原先生の意見をみなさんにわかりやすいようにまとめてみましょう。 『暗算には、能力暗算と珠算式暗算のふたつがあります。小学校で課せられるのは能力暗算ですが、覚えるまでに労力と時間がかかるうえに、数が大きくなると、けっきょく珠算か筆算にたよるしかありません。ですから、能力暗算は、実用向きとしては不便なのです。  珠算式暗算は、脳に思い描いたそろばんを使って計算する方法です。そろばんを抽象的にイメージして計算しますから、実際にそろばんを使って計算すること以上に、正確に速く、五六桁以内の加減乗除はかんたんです。  おどろく人もいますが、そろばんを弾くことができる人であれば、だれでも可能ですし、難しいことではありません。暗算の練習をしていないから、できないだけです。  ためしに目を閉じて、そろばんを思い浮かべて、2+3の計算を思い描いてみれば、おぼろげであっても梁(はり)の上の五玉を下ろし、梁の下の玉二個を払って、5という答えを得るでしょう。  珠算式暗算の基礎は、数をそろばんの形にして脳に思い浮かべることです。手始めに、残像を利用しましょう。たとえば、そろばんに二十六と置いて、約三十秒、これを注視して、目を閉じれば残像が残ります。(脳の記憶域のワーキングメモリーの働き)この残像を維持しながら、計算していくと、順次、玉の変化したそろばんのイメージが頭に残ります。答えは、脳に浮かんでいるそろばんを読めばいいのです。一学期のあいだに、四桁・五桁くらいのイメージができるようになります。  そろばんのイメージの確かさをチェックするためには、たとえば、3467を脳に描いたそろばんに置き、それを下の桁からいわせると、7643といえますし、基数の和を問えば20と答えられます。そろばんを脳に描けているならば、かんたんです。  じゅうぶんにイメージ練習ができたならば、一桁の補数練習、二桁の補数練習を行い、加法の練習から始めましょう』(以上、引用および書きかえ)  このあと、人の記憶に、視覚型、聴覚型、筋肉型、混合型等があることが説明され、榊原先生の実践では、多くの児童が視覚型と筋肉型の混合であったことが報告されています。筋肉型というのは、空中にそろばんがあるかのようにイメージして、手指を動かしながら暗算するタイプのことです。  児童たちのうち、視覚筋肉両型の混合型がもっとも上達したようです。そういっても、手指を動かすような動作は初歩のうちで、熟練した児童たちは、よそ見をしながらでも、笑いながらでも、落書きをしながらでも、正確に、敏速に計算していて、外から見ただけでは計算しているように見えなかったようですから、たいしたものです。 学院長 筒井保明