Archive List for そろばん通信

そろばん通信|2019年11月号

かけざんの基本は正確な九九  かけざんの基本は、九九。  こんなことをいうと、みなさんは、「そんなのあたりまえじゃないか」と、笑うかもしれません。  でも、みなさんのまわりにいる中学生のなかに、もし「数学が苦手なんだ」という中学生を見つけたら、 「おにいさん。おねえさん。一の段から九の段まで、できるだけ急いで九九をいってみてください」  と、ていねいにおねがいして、実際にやってみてもらってください。  きっと六の段から少しずつ時間がかかるようになるでしょうし、もしかしたら、ときどきまちがえるようになるでしょう。  中学生の場合、「数学が苦手」のうらには「計算が苦手」がかくれています。そして、「計算が苦手」のうらには「計算練習の不足」や「九九のまちがい」がかくれているものです。  ところが、中学生は、小学生よりもプライドが高い。 「いまさら、九九や計算練習など、できるものか!」  そういって、中学校の数学の問題に取り組むでしょう。そして、答え合わせをして、その結果にがっかりと落ち込むのです。 「どうして答えが合わないのだろう?」  考え方をまちがえているのなら、考え方を正しい方向に向ければいいのです。  数学のおもしろさは、考え方のおもしろさですから、正しい計算力を身につけている生徒にとっては、「まちがえ」もまた楽しいものなのです。  しかし、そもそも正しい計算ができない生徒にとっては、数学は苦しみでしかありません。数学が苦手であったり、きらいであったりする原因は、計算力が大きく不足していることです。計算が遅く、そのうえ不正確であれば、だれだって、算数や数学の問題に取り組むのがいやになってしまいます。  いっぽう、そろばんを練習しているみなさんは、速く、正しい計算ができるようになりますから、算数や数学がきらいになることはないでしょう。計算がラクになれば、算数や数学は楽しいものです。  さて、「九九」は、中国で生まれました。  英語では、チャイニーズ・マルティプリケーション・テーブルとかナイン・ナイン・マルティプリケーション・テーブル(Nine Nine multiplication table)というようです。  ほとんどのかけざんテーブルは、10×10までですが、現在では12×12までのかけざんテーブルも出まわっています。  さらに、25×25までのもの、30×30、33×33までのものもあり、どこまで暗記するかは、個人で決定すべきことでしょう。  みなさんは、まず、速くて正確な「九九」をしっかりと身につけてください。そして、その「九九」を使って、かけざんをたくさん練習してください。  江戸時代には、そろばんの流派によって、わりざんの九九もありましたが、みなさんのわりざんは、かけざんの「九九」を使います。江戸時代であれば、百川流(ももかわりゅう)といわれるかもしれませんね。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2019年10月号

そろばんの暗号  日本を代表する推理作家であった江戸川乱歩(一八九四年~一九六五年)は、作家になる前に、鳥羽造船所電機部の庶務課で働いていた。  当時は大正時代であり、電子計算機も電卓もなかったので、乱歩先生は、とうぜんながら、十露盤(そろばん)を使っていた。(変体仮名では、十は、そ、と読む)  このときの経験をもとに、『算盤が恋を語る話』を書くことになる。  造船所の事務室で、乱歩先生と思われる事務員の男が、おなじ事務室の女性に好意をもった。しかし、男は自分に自信がなく、女性に声をかけることがどうしてもできない。そこで算盤をはじいて、  1,245,322,222.72  (十二億四千五百三十二万二千二百二十二円七十二銭)をあらわす算盤を彼女の机に置いたのだ。(大正時代、「円」で終わらず、「銭」まで数えた)  朝、彼女が出社したとき、「あれ」という顔で机の上の算盤を見たものの、彼女は盤面の数字の意味に気づかない。事務員の男は、内心でがっかりした。  鳥羽造船所では、多くの社員を識別するために、名字の最初の文字に対して、「あ」なら1・1とか、「も」なら7・5とか、「す」なら3・3とか、数字を割り振って社員を管理していた。  だから、この算盤を解読すれば、彼女にあこがれの思いが伝わるはずなのだが・・・。  事務員の男は、一度や二度の失敗にあきらめずに、毎日、おなじ数をはじいた算盤を彼女の机の上に置いた。  すると、ある日、ふと彼女は顔を赤らめた。  「愛しき君」(いとしききみ)と読めたからだ。  上の五十音図を見てもらえば、みなさんにも解読できるだろう。  1・2 い  4・5 と  3・2 し  2・2 き  2・2 き  7・2 み  愛しき君というのは、当時においては、大胆な告白であろう。  興味がわいたら、直接、乱歩先生の小説を読んでください。推理小説であるから、あとは「読んでのお楽しみ」である。  さて、これを利用すると、君たちも算盤で暗号のやり取りができる。  たとえば、君が「1,222,713,321」と算盤に数を置いておくと、友だちが「121,285」とか「7,392」と答える。  君の暗号は、「いきますか?」で、友だちの答えは、「いいよ」と「むり」となる。  だれかを評価するときにも、「12,128,143」とか「229,112」とか算盤の暗号でやり取りができる。慣れてくると、五十音図を見なくても、つくれるようになる。「12,128,143」は「いいやつ」、「229,112」は「きらい」となる。  大正時代の日本人は、多くの人たちが算盤を使っていた。もしかしたら、日本のあちこちで、算盤による暗号が取り交わされていたかもしれない。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2019年8月号

そろばんで集中力を身につける(2)  前回は、集中力を妨げる原因について話しましたので、今回は、そろばんで集中力を身につける実践方法について説明しましょう。  集中力が身につくだけでなく、そろばんの上達速度も確実に上がりますから、必ず試してください。じつは、そろばんだけでなく、学習にも、スポーツにも、芸術にも役立つ方法です。  まず、なにごとであっても、スタートは、リッラクスした状態から始めます。  小学生がリラックスする方法はかんたんで、目をつむって、ゆっくり呼吸しながら、肩の力を抜いていくだけです。慣れてきますと、ちょっと目をつむるだけでもリッラクスできるようになります。小学生の潜在能力は、大人よりもはるかに高いのです。リラックスしているとき、脳波はアルファ波(α波)であり、学習を吸収できる状態です。  ところで、サッカーの試合の解説で、「この試合はホームだから、力を発揮できそうですね」「今回はアウェイなので、苦戦しそうですね」のように、「ホーム」と「アウェイ」という言葉が使われることを知っていますか。  ホームというのは、本拠地。ふだん練習している場所です。  アウェイというのは、本拠地から離れた場所。つまり、敵地です。  ホームではリラックスした状態から試合に臨めるので、選手たちは持っている力をじゅうぶんに発揮できます。アウェイでは緊張した状態で試合に臨むことになるので、選手たちは持っている力を上手に発揮することができません。  緊張した状態にあるとき、人は、ものを学ぶことや力を発揮することがむずかしくなるのです。たとえば、急な火事や地震のときに判断が停止して動けなくなってしまうのは、極度に緊張してしまうからです。「いざ」というときに、ただちに避難するためには、事前の訓練が必要になります。(緊急避難訓練はそういう点で必要なのです)  ともあれ、みなさんは、そろばんの練習前に、ぜひリラックスしてください。リラックスしてから取り組みますと、集中できますし、習得速度も速くなります。  つぎに、集中力のツボ。中国では、ツボのことを「経穴」(けいけつ)といいます。上の前歯の歯茎に近いところに、頭がよくなる、健康になる、集中できる経穴があるそうです。「舌抵上顎」(ぜつていじょうがく)という指示に従って舌を動かすと、この図のようになります。舌の先が当たっている部分が集中力のツボだといわれます。  ここで気がつくのは、この舌の先が上あごに当たっている状態は、そのまま「鼻呼吸」の状態です。鼻呼吸は集中力を高めますので、この集中できるツボは、もしかしたら「鼻呼吸」の効果であるかもしれません。ツボを押さえた結果であっても、鼻呼吸の結果であっても、集中力が高まることは確かです。  さあ、二つの準備ができました。そろばんに向かって、軽快にそろばんの玉を弾いていきましょう。 学院長 筒井保明