Archive List for 学院長

学院長からのメッセージ 2024 August

夏の大逆転!! Changeover in Summer  目的志向という言葉がある。英語ではgoal-orientedという。文字どおり、目的(ゴール)に志が向いている状態だ。意識しているかどうかに関わらず、だれでも、目的志向で行動している。実際、生活のあらゆる場面で、目的志向が働いているはずだ。(食事⇒料理、清潔⇒手洗い、宿題⇒学習、など)  エーリッヒ・フロムという思想家が、君は「持つ様式」(to have)で生きるか、「ある様式」(to be)で生きるか、と問いかけた。  ここに一冊の本がある。A君は本棚に収めて、本を持ったことに満足した。いっぽう、B君は本を読んで感動し、目的を意識して行動を起こした。  ここにサッカーボールがある。A君は、新しいボールを持って、ボールを磨いた。いっぽう、B君は、新しいボールでさっそく練習を始めた。  ここに受験の問題集がある。A君は、受験の問題集を持っていることに安心した。いっぽう、B君は、その問題集が志望校合格に役立つと考えて、ただちに取り組んだ。  フロムは、「持つ様式」で生きるとき、人は物に支配され、「ある様式」で生きるとき、人は物から自由になる、という。「持つこと」は、所有であり、受動的。「あること」は行動であり、能動的。  さて、夏は行動の季節である。朝、太陽が力強く昇り、元気よく目覚めることができる。受験生はいうまでもなく、どの学年であっても、この夏、自分自身の「大逆転」を目指してほしい。「大逆転」とは、現状打破であり、新しい自分になることだ。  そのために、「目的志向」を利用してみよう。毎日の手順は、つぎのようになる。 ①まず自分の目的・目標を意識する。目的・目標は一つではないから、さしあたって、いまの自分が最も達成したいことを考える。受験生なら、「志望校に合格したい」でいいだろう。スポーツマンなら、「最高の選手になりたい」でいいだろう。分野に関わらず、「〇〇になりたい」でいいだろう。「ある様式」(to be)で生きることが目的志向だ。 ②目的・目標を寝る前に意識に上げて、「君はできる」「あなたはもっとできる」と自分に言い聞かせる。(わたしはできる、わたしはもっとできる、でもいい)言い聞かせたら、リラックスして、熟睡する。 ③朝起きたとき、目的・目標を意識して、ただちに「やること」を決める。(あるいは何時に「やること」を決める)そして、ただちに(何時に)必ず実行する。(気分がのらなくても、取り掛かること!)これを、毎日、繰り返していると、その行動が習慣化され、効率よくできるようになる。 ④夜、寝る前に、強く一回、「できる」「もっとできる」と言い聞かせて、熟睡する。寝るまでの時間帯に、目的・目標につながることを行っていると、その行動と「できる」という意識が睡眠中に定着し、目的志向を強化することになる。 ⑤朝起きたとき、目的・目標を意識して、ただちに(何時に)「やること」を決め、必ず実行する。  以上の行為をくりかえしていると、無意識のうちでも「目的志向」が働くようになってくる。受験生なら、いつのまにか受験学習に取り組んでいる。スポーツマンなら、自然に練習に励んでいる。どの分野でも、目的・目標に必要なことを自発的にやるようになる。  夏は、行動の季節だ。自分の目的・目標にむかって、力強く前進しよう。 山手学院 学院長 筒井 保明 山手こども教育研究所のメールマガジンのご案内  山手学院 50 周年。これまで、ホットラインや小冊子やイベントなどを通じて、学習方法や学習習慣のつくり方などをアドバイスし、みなさまとともに実践してきました。また、中学受験、高校受験、大学受験に関する情報や精細なデータに基づく入試分析などを発信し、受験校選択や受験学習に活用してきました。  学習や生活や受験に関する知識や情報を広く知らせることは、生徒や保護者のみなさまの気づきや発見を促し、今後の学習や生活や受験に必ず役立ちます。  ぜひ、山手学院こども教育研究所のメールマガジンをお申し込みください。(週 1 回の定期配信と教育情報の号外配信になります) ●メールマガジンご登録フォームはこちら

学院長からのメッセージ 2024 July

目標と希望とねばり強さ Goal, Hope, and Tenacity  目標の達成に必要なのは、「ねばり強さ」である。そして、「ねばり強さ」の根源は、「希望」である。だから、自分の目標を決めたら、まず強い希望を持って、ねばり強く取り組んでいくことだ。そうすれば、君はきっと目標を達成できるだろう。  「粘り強さ」と聞くと、わたしは、ドイツの詩人、科学者、政治家であったゲーテ(1749-1832)を思い浮かべる。わたしの場合、森鴎外の影響であるけれど、「聖書」の次に重要だといわれた『ファウスト』という作品を例に説明してみよう。  ゲーテ自身の手紙に「20歳のとき、思いついたものを、80歳になって完成させ、発表するのだから、容易なことではない」と書かれている。つまり、『ファウスト』を完成するまでに、60年、かかっている。  森鴎外の『ファウスト考』から引用すると、「ゲーテは満82歳になるまでに、第2二部が脱稿するようにと心掛けた。そして、とうとうその希望を遂げた。(中略)第二部を書くようになってからは、毎日、朝早く、眠りの後に、気分が爽やかに、強くなっていて、まだ日常生活の醜い姿が心を乱さないうちでなくては、出来ない。それも原稿一ページが、珍しく出来の好い時で、ふだんは手の平でおおわれるほどの行数しか書けない。それよりも少ない時もある」  手の平でおおえる行数は、ノート1ページの三分の一程度。そして、それより少ないときもあったのだから、どれほどの「ねばり強さ」が必要であったか、想像できるだろう。  ゲーテは、歴史上、最高の勉強家の一人であった。主人公のファウスト博士には、ゲーテ自身が投影されている。ゲーテ以前のファウスト博士と悪魔メフィストフェレスの契約は「なんでも自由にできる期間を与えよう。ただし、期限が来たら、おまえの魂は悪魔のものだ」であったけれども、ゲーテのファウストとメフィストフェレスの契約は、「向上の知識欲を捨てて、受容(学習)に満足したとき、つまり、みずから向上心を捨てたとき、おまえの魂は悪魔の手に落ちる」というものだった。このとき、契約は試験になった。ファウストは、学び続けることによって、この試験に合格しようと努力した。  たしかに、ファウストがいうように、「人は努力するあいだ、迷うに決まったもの」である。けれども、学び続けるかぎり、ファウストは、悪魔の試験に負けない。  ファウストは、高い努力を続けた。そして、彼は亡くなる間際、一瞬、受容(学習)に満足を感じた。そのとき、悪魔は「勝った」と思ったけれど、神の使いの童子は、ファウストの魂に向かって、「あなたは学びました。つぎは、わたしたちに教えてくれますね」といった。目標を達成したのは、悪魔ではなく、ファウストだった。  靄や霧の道(先が見えない道)を進みながら、ゲーテも、ファウストも、けっして希望を捨てなかった。  君の目標が本気のものならば、必ず希望が生まれる。自分の希望を大切にして、どんなことにも、ねばり強く取り組んでいこう。  「目標」「希望」「ねばり強さ」が君の未来を開くのだ。 山手学院 学院長 筒井 保明 山手こども教育研究所のメールマガジンのご案内  今年、山手学院は、50 周年を迎えます。  振り返ってみますと、ずいぶん長いあいだ、教育情報を発信し続けてきました。  生徒や保護者のみなさまの声に耳を傾けながら、ホットラインや小冊子やイベントなどを通じて、学習方法や学習習慣のつくり方などをアドバイスし、みなさまとともに実践してきました。また、中学受験、高校受験、大学受験に関する情報や精細なデータに基づく入試分析などを発信し、各学年の受験校選択や受験学習に活用してきました。  教室では生徒たちとわたしたちが協同して取り組み、ご家庭では保護者の方の協力で生徒一人ひとりが取り組んできました。そして、その成果が、生徒たちの成長として積み上がっています。これからも、生徒や保護者のみなさまの実践と結果のフィードバックにより、よりよい情報や方法が集まってきます。  学習や生活や受験に関する知識や情報を広く知らせることは、生徒や保護者のみなさまの気づきや発見を促し、今後の学習や生活や受験に必ず役立つものであると考えます。  ぜひ、山手学院こども教育研究所のメールマガジンをお申し込みください。(週 1 回の定期配信と教育情報の号外配信になります) ●メールマガジンご登録フォームはこちら  

学院長からのメッセージ 2024 June

感情を止めて、自分を観る Restrain Your Emotions and See Yourself.  まず現在の自分のことを考えずに、未来の自分のことを考えてみよう。「明日の自分」のような、近い未来でもいいし、「二年後の自分」「十年後の自分」のような、遠い未来でもいい。そのとき、「自分はどうなっていたいか」と考えてみると、自分のやるべきことが見えてくる。  明日、仕上げた課題を提出して、先生に感心される自分になりたいなら、君はさっそく目の前の課題に取りかかるだろう。二年後、志望校に合格している自分になりたいなら、君はただちに学習に取り組むだろう。  いま、意識した自分がすぐに行動を起こせば、未来の自分(目的、目標)が実現する可能性がグンと高まる。君が目的や目標に向かう行動をすぐに起こすか、どうか。未来の自分は、この決断にかかっている。  少し先、また、かなり先の未来の自分を考えてみる習慣は、君の人生を大きく変化させるだろう。なぜなら、ひとは、思い描いた目的や目標に向かって、行動するからだ。逆に、目の前のことばかりに気持ちをとらわれていると、ひとは目的や目標を失ってしまうかもしれない。  もし、いま、目の前にゲームがあって、すぐにゲームを始めると、提出する課題は後回しになるだろう。また、友だちに誘われて遊んでしまうと、その日の学習はおざなりになるだろう。  そういっても、だれでも、目の前の誘惑には弱い。だれでも、のどが乾いたら水が飲みたい。お腹がすいたら食べ物がほしい。危ない車が近づいたら逃げたい。だから、楽しいことが目の前にあれば、大切なことを忘れて、飛びついてしまうのは、やむを得ないことかもしれない。  でも、そのとき、君が「こうなっていたい自分」(未来の自分)に気がつけば、誘惑に打ち勝って、君は課題に取りかかるだろうし、学習に取り組むだろう。  課題や学習を前にしたとき、もし「ゲームがしたい。遊びに行きたい。さぼりたい」など、誘惑の感情が起きたら、いちど、自分の感情を止めて、自分を観てみると、いま、やるべきことがはっきりするはずだ。  課題はどうする? 学習はどうする? 自分の問題を意識して、自分に問いかけてみる。すると、自然に答えが見えてくる。  仏教の「止観」という方法であるけれど、僧侶でも感情(煩悩)の制御はむずかしい。したがって、心が目的以外のことに誘惑されそうなときは、ともかく、いちど、感情を止めて、自分を観る。  君たちの場合、ゲーム、スマホ、テレビ、遊びなどに手を出す前に、いちど、その気持ちを抑えて、未来の自分を考えてみよう。いまの自分は、ゲーム、スマホ、テレビ、遊びなどの誘惑に負けそうだとしても、未来の自分は負けない。なぜなら、未来の自分は課題を仕上げることや学習に取り組むことを強く望んでいるからだ。  目的や目標を達成するのは、未来の自分にほかならない。 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2024 May

取り組んだ人からヒントを得よう! Take a tip from one who’s tried!  新しい学年がスタートした。まず積極的な態度で、さまざまなことに取り組んでみよう。  そして、見るだけ、聞くだけ、読むだけではなく、自分の口や手や身体を使って、受け入れた情報を声や文字や表現といった形で外に発信してみよう。学習を受動的なものから、能動的なものに変えるのだ。自分の口や手や身体を使うことは、学習の定着度を強化するアクティブ・ラーニングの本質でもある。  学習方法や記憶法に関しては、古今東西、たくさんのことが伝えられてきた。現在では、神経科学の裏づけもあって、生き残った方法もあれば、捨て去られた方法もある。学習習慣のつくり方もはっきりしているし、学習方法より学習環境のほうが重要だという考え方もある。学習方法がわかっていても、誘惑に邪魔されて、そもそも学習できなければ意味がないじゃないか、ということだ。  そもそも学習方法は、学習が苦手な人たちを対象に創出されている。もし、目で見て、耳で聞き、そのまま記憶でき、たちまち理解して、すぐに応用できるなら、その人に学習方法は必要ないだろう。学習において、壁に突き当たったとき、人は、もっと効果的な、もっと効率的な学習方法を求めた。  教育学で有名なマリア・モンテッソーリであっても、独自の指導法で著名なグレン・ドーマンであっても、学習に問題を抱えた子どもたちのために、くりかえし教授法を試行し、やがて効果のある方法を発明した。そして、かれらの取り組みがたくさんの子どもたちの可能性を大きく開いたのだ。  さて、山手学院は、今年で50周年を迎える。振り返ってみると、いつのまにか、イベントやホットラインや小冊子などで、たくさんの教育情報を発信してきた。受験情報など、毎年のように更新される情報もあれば、学習習慣のつくり方など、いつまでも使われる情報もある。重要な情報を得ることで、受験の方向が変化したり、学習法が改まったりする。そして、だれかが取り組んだことによって、その効果がはっきりすると、それをヒントにして、他のだれかが新しい取り組みを始める。  これから、学習環境のつくり方も、学び方も、さらに更新されていくだろう。 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2024 April

新しい挑戦を始めよう! Move on to a new challenge!  中学受験、高校受験、大学受験を通して、君たちの挑戦を見ていると、いつも明るい気持ちになる。挑戦する人がいるかぎり、世界に勇気が生まれるからだ。  行きたい学校があって、合格するために学習しよう、と思っている人はたくさんいるだろう。そして、行きたい学校に合格するために学習を始める人もたくさんいるだろう。けれど、行きたい学校に合格できるまで、ねばり強く学習を続ける人は、何人、いるだろうか。  ものごとを成し遂げるために必要なことは、「やろうと思うこと」「やり始めること」「やり続けること」だ。とくに「やり続けること」がもっとも重要であり、もっとも難しい。  今回の受験を振り返ると、合格できる条件を備えていても、当日、緊張してしまって涙をのむ生徒もいたし、合格できる条件をやや欠いていても、当日、潜在する力を発揮して合格を勝ち取った生徒もいた。入試が厳しければ厳しいほど、当日のコンディションが結果を左右してしまう。  ところで、入試の結果により、進学する学校が決まったら、さっぱりと気持ちを切り替えるほうがいい。東京の巣鴨学園の第四代校長の堀内政三先生(1918-2012)は「スウィッチ、スピード、スマート」を標語にしていて、わたしは、『生々主義哲学綱要』(遠藤隆吉著)をいただいたときにお話をうかがったことがあり、「スウィッチ、スピード、スマート」は、わたしのモットーにもなった。  今回、受験を終えた生徒であれば、  進学する学校が決まったら、あたまをスウィッチ!  取り組むことを決めたら、スピード!  そして、進学した学校でスマートに前進しよう!  新しい学年に進む生徒であれば、  新学期に向けて、気持ちをスウィッチ!  目標を決めたら、スピード!  そして、スマートに目標を達成しよう!  「スウィッチ、スピード、スマート」は、なにかを始めるとき、勢いをつけたいとき、集中して上手にやり遂げたいときなどに、ピッタリ合う標語だろう。  今回の受験は、終了した。卒業は、新しい始まりだ。  いま、君は、自分の目的や目標を持っているだろうか。  もし、持っていなかったら、さっそく考えてみよう。  自分の目的や目標を実現しようという気持ちが、学習や行動の原動力になる。君は、自分の目的や目標を意識するたびに、気持が改まり(スウィッチ)、さっそく取りかかり(スピード)、きちんとやり切る(スマート)だろう。そして、学習や行動を続けることができれば、目的や目標が実現するだろう。  さあ、新しい学校や新しい学年で、新しい挑戦を始めよう! 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2024 March

君のゴール Your Goal  中学入試、高校入試、大学入試が終わっても、君にとって、それは人生のゴールの通過点でしかない。もちろん、志望校に合格したなら、うれしいだろうし、不合格なら、悔しいだろう。君の取り組みを見ているわたしだって、君とおなじ気持ちを味わうことになる。  うれしくても、悔しくても、進学することになった学校は、君にとって、新しくスタートを切る場所なのだ。ぜひ積極的な態度で、さまざまなことに取り組んでもらいたい。  今回は、大学入学共通テストの現場を見てきたので、小学生・中学生にはずいぶん先のことのようだけれど、すこし状況を説明してみよう。  1 月 13 日(土)の 1 日目は、どの会場も 9 時半にテスト開始。中学受験・高校受験と異なるのは、地理・歴史・公民のうち、2 科目を受験する生徒たちだけが 9 時半開始で、1 科目の生徒たちは 10 時 40 分開始。したがって、朝の開門のときに全員が集合するわけではない。  それでも、試験会場には余裕をもって行くのが鉄則だから、開門時間には多くの生徒たちがやってきた。会場は高校ごとの割り振りであり、試験会場の守衛さんたちや高校の先生たちが待機していて、生徒たちを出迎えていた。おなじ学校の同級生が多いはずなのだけれど、はしゃぐこともなく、みんな緊張の面持ちだ。1 日目は、大学入学共通テストを利用する国立大学と私立大学を志望する生徒たち全員が集まってくるので、受験者数もかなりの人数になる。大学入試センターの発表では、全国で 49 万 1,913 人。  試験会場の待機場所では、早く来た生徒たちが黙々と学習を続けていた。おしゃべりをするような生徒はほとんどいない。わたしは、全員が健闘することを祈った。  1 月 14 日(日)の 2 日目は、理科・数学なので、受験生がグンと減った。守衛さんも一人、二人、高校の先生たちも減り、生徒たちもまばらにやってくる。この試験会場では、国立大学や理数学部を目指す生徒たちが少ないからだろう。そういっても、待機場所での雰囲気は、前日とかわらず、ほとんどの生徒たちが教室への移動時間まで学習を続けていた。  さて、翌週、大学入学共通テストの解答が公表され、受験生たちは自己採点。それと同時に、データネットなどを使って、合格可能性判定基準をチェック。得点や得点率で、A 判定、B 判定、C 判定、D 判定、E 判定に分かれる。わたしは、山手学院高校部の生徒たちの自己採点結果を見た。個々の得点や得点率ではなく、あくまで志望校に対する判定に注目することになる。当然、生徒たち自身、高校の先生方も、志望校に対する判定に注目して、安心したり、不安になったりする。そして、その状況によって、高校でも、山手学院高校部でも、面談が行われる。  山手学院高校部の村元室長の説明によれば、仮に D 判定や E 判定だからといって、その判定がどのくらいの厳しさを表しているのかは、もっと詳細なデータを見なければわからない。さらに 2 次試験を突破できるかどうかは、数字に表れない学力(教えているときの生徒の出来具合やこれまでの成績の分析など)を加味しないと、大学入学共通テストの結果だけでは判断できない、という。事実として、これまでの入試において、A 判定でも不合格者はいるし、D 判定や E 判定でも合格者はいるのだ。大学入試(一般受験)のもっと厳しい勝負はこれからである。  中学 3 年生は、高校入試が終了したら、ぜひ山手学院の高校準備講座を受講してほしい。なぜなら、新高1の一学期から、学校推薦型選抜をはじめとして、実質的に大学入試が始まるからだ。 […]

学院長からのメッセージ 2024 February

新しい始まり New Beginning  受験が終わると、つぎは卒業だ。わたしが中学生の頃は、卒業のことを英語で commencement(開始)と教わった。だから、卒業式は、commencement ceremony で、ケンブリッジ英語辞典の定義は「学位授与式」である。  君たちは、卒業のことを英語で graduation と教わるだろう。graduation ceremony は、ケンブリッジの定義では「修了式」である。  英語の commence は「何かを始めること」であり、graduate は「前進すること」「よりよくなること」であるから、けっきょく、卒業も終業も、つぎの新しい始まりにつながっている。ちなみに、卒業は「すべて学業を終えました」ということだから、小学生も中学生も高校生も、それぞれの学校の学習課程を修了したことになる。つまり、一つの段階を終え、つぎの段階に進むのだ。  現在、世の中の変化が目まぐるしいけれど、じつは、君の変化だって目まぐるしい。君の意識の持ち方次第で、昨日の君と、今日の君は、まったく違う君になってしまう。  そもそも自分って、なんだろう?  いま、意識している自分が自分に違いないのだけれど、その自分は過去の記憶でできあがっている。「できる自分」「粘り強い自分」「やる気のある自分」を過去の記憶から引っ張り出して意識しているとき、いまの君は「できる自分」「粘り強い自分」「やる気のある自分」だ。そのままの状態で、なにかに取り組めば、必ず成果が出るだろう。逆に、「できない自分」「投げやりな自分」「やる気のない自分」を過去の記憶から引っ張り出して意識しているとき、いまの君は「できない自分」「投げやりな自分」「やる気のない自分」だ。そのままの状態で、なにかに取り組んでも、なかなか成果が出ないだろう。  ひとは自分が意識している方向に向かうから、「できる」方向に向かえば、できるようになり、「できない」方向に向かうと、できるようにならない。たとえば、自転車を運転しているとき、わき見をすると、わき見の方向に意識をとられてしまうから危ないのだ。もし、わき見を続けたとしたら、思わぬ事故に遭い、目的地に着けないだろう。  君が目標を持っているなら、できるだけ、わき見をしないようにしよう。自分の目標を意識して、いつも目標のほうに向かおう。いつも目標を意識するようにすれば、自然に、目標達成に必要な行動をとるようになる。「いやだな」「めんどうだな」という消極的な気持ちがわいてきたら、ちょっと目をつぶり、自分の目標を思い出して、目を開けたら、即行動を起こす。即行動を起こすことが、消極的な気持ちを打ち消す即効性のある方法だ。  ふりかえってみれば、だれにでも、「できたこと(小さなことでもかまわない)」があるはずだ。その「できた自分」を選べば、君は、できるようになる。  最後に、受験生へのアドバイス  ●試験会場に余裕をもって行くこと。●試験会場に自分をなじませて、リラックスすること。●試験が始まったら、目の前の試験に集中すること。● 1 限目の試験が終わったら、それを振り返らずに、つぎの試験に向けて、リラックスすること。● 2 限目の試験に集中すること。(以後、繰り返し)  試験会場の時間も、人生の縮図のようなものかもしれない。一つの終わりは、つぎの始まりなのだ。  入学試験当日は、その日のことに全力で取り組もう。  全力を尽くしたら、笑顔で学校を卒業してほしい。卒業は、新しい始まりなのだから。 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2024 January

効力感と無力感 Self-efficacy and Self-inefficacy  君が目標を達成するために必要なことは、「できる」という感覚を持つことだ。君が「できる」と信じているなら、君はできるようになる。君が「できない」と思い込んでいるなら、君はできるようにならない。「できる」は効力感であり、「できない」は無力感である。  君に必要なのは、もちろん、自己効力感だ。「自分が望む結果を生み出す力が、自分にはあるんだ」という感覚を持っていると、君は、自然に、目標を達成する方向に行動を起こすだろう。なぜなら、君は、自分が望む結果を生み出すことができると思っているからだ。  逆に、君が無力感を持っていると、君は、目標をかんたんにあきらめてしまうだろう。なぜなら、君は、やってもムダだと思っているからだ。  効力感も、無力感も、これまでの君の経験の中で形成されている。どちらも無意識の中に埋め込まれてしまうので、保護者や教師や周囲の人たちを含めて、君を取り巻く環境がとても重要になる。君の取り組みや君の成長を認めて、君を励ますような環境であれば、君は自己効力感を培うことができる。逆に、君を誰かと比較して、君を低く評価するような環境であれば、君は自己無力感を抱いだかされてしまう。  過去の、相対評価を使っていたときの学校教育は、生徒が真剣に取り組んで、自分なりに学力の増進を感じていたとしても、テストなどの結果で、5 と 1 を各 7%、4 と 2 を各 24%、3 を 38%のように、生徒たちを割り振って評価していた。2や1に評価された生徒たちの中にも、個人として学力を伸ばしていた生徒が何人もいたはずなのだが、個人として評価されることはなかった。クラス全員が努力すればするほど、31%の生徒たちは無力感を感じていた。残念ながら、相対評価は、生徒たちの多くに無力感を形成していたのだ。  さいわい、現在の通知表評定は、相対評価ではない。誰かと比較されることなく、小学生は「よくできる」を目指すことができるし、中学生は「A」を目指すことができる。教育の在り方としては、真っ当な評価方法である。とくに重要なのは、小学生も、中学生も、各教科の 3 番目の項目、「主体的に学習に取り組む態度」という観点だ。  では、「主体的に学習に取り組む態度」は、どのように評価されるのか。 ① 粘り強い取組を行おうとする側面(各教科等の観点の趣旨に照らし、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた中で粘り強く行う側面のこと) ② 自らの学習を調整しようとするとする側面(自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなどの「自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているか」という意思的な側面のこと)  国語の文法で説明すれば、「粘り強い取組を行おう」の助動詞「う」は、強い気持ちを表す「意志」である。「自らの学習を調整しよう」の助動詞「う」も君の意志である。したがって、君自身が「積極的に取り組んでいるかどうか」が評価の対象だ。もし、君が積極的に取り組んでいるにもかかわらず、「主体的に取り組む態度」が「できる」「がんばろう」や「B」「C」で納得できないときには、保護者に相談して、その理由を学校の先生に聞いてもらうといい。そうすれば、なにをすればいいのかがわかる。  「主体的に学習に取り組む態度」の観点で「よくできる」「A」と評価されているなら、君は、自信をもって、粘り強く取り組んでいけばいい。自己効力感が形成され、グングンと学力が伸びていくはずだ 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2023 December

リラックスの練習 Practice to Relax  試験や試合に臨むとき、だれもが自分の持っている全力を出し切りたいと願う。  その結果がよければ、もちろん、うれしいけれど、自分の全力を出し切った結果なら、結果がよくなかったとしても、すぐに次のチャレンジに向かっていける。なぜなら、もっと大きな人生の目的が君にあるはずだから。  目標は、目的から生まれる。  たとえば、テストの得点や通知表評定や偏差値が目標になるのは、「行きたい学校に合格する」という目的があるからだ。また、スポーツの各チームの目標が、各試合に勝って勝率や順位を上げることになるのは、「優勝する」という目的があるからだ。  大きな目的があるから、だれもが目標を達成したいと願う。  ところが、試験や試合に臨むとき、君の力を押さえつける敵があらわれる。「緊張」というやつだ。そもそも試験や試合自体がストレスである。そして、ストレスが不安につながり、緊張を強めてくる。スポーツのグラウンドであれば、ホームでは実力を発揮できるのに、アウェイの適地になると、緊張して十分に実力を発揮できない。  試験会場は、アウェイの場所だ。したがって、受験生は、できれば、試験会場(受験校など)に何度か行っておくこと、できなければ、試験当日に早めに到着して試験会場に慣れておくことを勧める。なぜなら、ひとは知らない場所では無意識に緊張してしまうけれど、時間がたって慣れてくると、緊張がほぐれてくるからだ。そういっても、それだけでは十分ではないだろう。  そこで、日ごろから、リラックスする練習を心がけておくことが必要になる。  日ごろというのは、学校や塾の授業前、学習の前、練習の前、各種のテストの前だ。  なぜなら、授業や学習や練習を吸収するためにも、テストで力を発揮するためにも、リラックスしてから取り組むと、効果が上がるからである。  リラックスする方法はたくさんあるので、ここではかんたんなものを紹介しよう。 ●目をつむる。目をつむって光を遮断すると、脳波がゆったりとして落ち着く。 ●深呼吸する。静かに呼吸しながら、ムダな力を抜いていくと落ち着く。 ●表情をゆるめる。モナ・リザのようなほほ笑みを浮かべると落ち着く。 ●筋肉の力を抜く。ギュッと手を握って力を込め、力を開放すると落ち着く。 ●体のツボを押す。眉間(第三の目)や手のひらの中央よりやや下を指で押すと落ち着く。(落ち着くツボはほかにもあるので、調べてみよう) ●手の指を握る。  これはたまたま YouTube で見かけたもので、日本のリラックス方法 A Japanese Method to Relax として紹介されていた。出典は不明だが、親指が不安 anxiety、人差し指が恐怖 fear、中指が怒りanger、薬指が悲しみ sadness、小指が自尊心 self-respect で、自分の状態に当てはまる指を逆側の手でギュッと握ると落ち着くそうだ。  以上は、当日のものだが、もっと重要なのは、前日だ。前日に心が動揺するようなショックがあると、次の日に悪い影響が出てしまう。寝不足が不安につながるのだ。だから、試験や試合の前日は、ともかく、リラックスして、早めに寝てしまうこと!  ぐっすりと熟睡すると、不安や緊張に負けない状態が準備できる。睡眠は、本当に重要だ。 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2023 November

音読の価値 The Value of Reading Aloud.  街の人混みのなかに入ると、どこからか、日本語以外の言語の音が聞こえてくる。英語や中国語をはじめとして、韓国語やネパール語やベトナム語やスペイン語などが、とつぜん、耳に飛び込んでくる。わたしが子どものころの日常に、こんなに多くの言語は存在しなかった。  当然、知らない言語は、たんなる音の連続でしかない。言語の学習とは、この音の連続を切り分けて、それぞれの音が表現する意味を組み立てて理解することである。「英語は読めるけど、聞いたり、話したりできない」という大人が多いけれど、これは学習方法をまちがえてしまった結果だ。文字は、音の連続を記録するためのものだから、まず音があって、文字がある。じっさい、文字を持たない言語はあっても、音声を持たない自然言語はない。  多くの国の教育が、「音読」を重要な学習に位置付けているのは、言語の本質が音声であるからだ。  前回、英語を聞くことの重要性を強調した。今回は、音読に関して、説明してみよう。  聞かせる対象がいる場合の音読をとくに「読み聞かせ」というけれど、もちろん「読み聞かせ」も音読だ。英語では、読み聞かせも、音読も、Reading aloud である。また、「読」という漢字自体、「声を出す」が本義である。また、黙読が普及するまで、書物は基本的に「声に出して読まれるもの」であった。古事記も、源氏物語も、平家物語も、本来、耳で聞かれるための書物である。  アメリカでは、2001 年、ジョージ・W・ブッシュ大統領のとき、No Child Left Behind Act(落ちこぼれを出さない議決)が下院議会で決まり、「音読は唯一最も重要な学習行動」Reading aloud is the single most important activity という考えのもと、読み聞かせ・音読・読書に力を入れることになった。同時期に、日本でも読書教育に力を入れるようになった。  音読の効果の顕著な例として、  音読は記憶を強化する。(たとえば、オーストラリアの実験で、10 歳の子どもたちを対象に、言葉の認知度を調べると、音読 87%、黙読 70%。67 ~ 88 歳の大人の場合、言葉を思い出せる度合いは、音読 27%、黙読 10%、認知度は音読80%、黙読 60%)  わたしが、君たちに「英語に限らず、国語でも、社会でも、理科でも、単語や用語や文を声に出してから書くこと」を強く勧めるのは、口や手を動かすために脳の運動野を使うので、学習がアクティブになるからだ。(したがって、認知度も、思い出せる度合いも上がる)  ある学者は、音読による記憶強化を「生産効果 production eff ect」と呼ぶ。そして、質問に答えて(ワーク学習など)言葉を想起する記憶強化を「生成効果 generation eff ect」、視覚や想像に結びつける記憶強化を「実演効果 enactmenteff ect」と呼ぶ。  もっとも強いのは、音読の生産効果であるが、じつは「聞くこと」に集中することもかなり効果があることがわかっている。たとえば、認知症の方に、「読み聞かせ」を繰り返していると、記憶テストの成績が改善されていくそうだ。この結果を受けて、「音読は恩恵をもたらすのに、どうして、ひとは黙読に替えてしまったのだろう?」といっているが、もちろん、黙読にも価値がある。黙読がもたらすものは、スピードだ。なにを目的にするかで、読み方が変わる。音読は、「言うこと/聞くこと saying/listening」であり、黙読は「見ること seeing」である。  君は、なにを目的にしているだろうか? 君が記憶強化を必要とするなら、音読の生産効果を活用しよう! 山手学院 学院長 筒井 保明