Archive List for そろばん通信

そろばん通信|2020年10月号

山手学院朝霞台校がそろばんクラスを開講します!  山手学院のそろばんクラスは、全国珠算教育連盟の加盟校です。  全国珠算教育連盟は、1953年の9月に誕生した、珠算教育にたずさわる連盟です。1956年に社団法人、2013年に公益社団法人の認定を受け、責任ある珠算教育団体として、社会に資する役割が大きくなっています。 さて、山手学院がそろばんクラスをつくるきっかけになったのは、山手学院の数学教師たちにそろばん習得者が多いこと、計算の速さと正確さを兼ね備える生徒たちにそろばん学習者が多いことに気がついたからでした。  そろばんクラスの開講を考えたとき、最初に相談したのは、東京都知事認可の珠算学校の先生でした。ですから、もしかしたら山手学院そろばんクラスは、東京珠算教育連盟(“脳”活性化集団トーシュレン)でスタートしていたかもしれません。  ところが、山手学院の教師たちに段級位の確認をしますと、ほとんど全国珠算教育連盟の段級位であり、さらに日本商工会議所の珠算能力検定の級位でした。また、保護者の方々におたずねしても、やはり全国珠算教育連盟の段級位と日商の検定級位でした。  以上のようなことを話しますと、東京の珠算学校の先生は、 「そろばんの団体はたくさんあるから、いっそ山手連盟でもつくったら」 と冗談をいわれましたが、山手学院の生徒たちが段級位に挑戦していくなら、保護者の方々が持っている全国珠算教育連盟の段級位から始めよう、ということで、全国珠算教育連盟に加盟したのです。  埼玉県ということもあるのでしょうが、いまのところ、みなさんがお持ちの珠算資格は、全国珠算教育連盟と日商の段級位がほとんどです。ですから、全国珠算教育連盟でスタートしたことは正しかったと考えています。  そろばんの効用については山手学院そろばんクラスのパンフレットにまとめて書いていますので、ここでは触れませんが、珠算式暗算に力点を置いていることは強調してもいいでしょう。  そろばんという道具自体が、(触覚、聴覚も使いますが)視覚的なものですから、そろばんの習得は、筆算とはまったくちがう計算能力です。筆算は言語的操作(数字も抽象化された言語)ですが、そろばんは、そろばんという道具を使っていても、イメージ操作です。また、イメージ操作だからこそ、そろばんという道具が目の前になくても、珠算式暗算ができるようになるわけです。  前頭前野でイメージを操作することは、脳の重要な能力を培います。 もしかしたら、小学校教育として、そろばんが正式に導入されなかった原因は、言語学習中心の小学校教育になじまないと判断されたのかもしれません。小学3・4年生の教科書で、そろばんが紹介されるものの、文化史としてあつかわれている程度です。  昭和の初めごろから「そろばんはいつ始めるのがいいか」という議論がくりかえされますが、「そろばんは、できるだけ低学年から始めるべきだ」という意見にわたしは賛成です。  筆算で数字(抽象的な言葉)を操作する練習にくらべて、そろばんの球(具体的なもの)でイメージを操作する練習は、低学年の生徒ほど、なじみやすく、得意になることができるからです。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年8月号

声を出して大きな数を数えよう!  1,000,000,000,000という数字を数えるとき、みなさんはどうやって数えますか?  一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億、千億、一兆と下から桁上がりに数えていって、1,000,000,000,000を「一兆」と答えるかもしれません。  最近の大企業には兆を超える売り上げの会社もありますから、わたしたちは大きな桁に慣れておく必要があります。  たとえば、住友電気工業株式会社の売上高は、3,107,027百万円です。  3兆1千70億2千7百万円です。  アラビア数字では、3桁ごとにカンマを打ちます。  英語であれば、3桁ごとに読み方が変わりますので、カンマで区切られた数字を読むのはむずかしくありません。ところが、4桁ごとに読み方が変わる日本語では、カンマとズレますので、練習して読み慣れる必要があります。  1 one ワン 一  10 ten テン 十  100 one hundred ワン・ハンドレッド 百  1,000 one thousand ワン・サウザンド 千  ここまではいいのですが、  10,000 ten thousand テン・サウザンド 万  英語では、,000はサウザンドのままですが、日本語では0,000で「万」と読みます。  100,000 one hundred thousand ワン・ハンドレッド・サウザンド 十万  英語では、,00はハンドレッド、,000はサウザンドのままですが、日本語では、0,000が万ですから、100,000は十万と読みます。  1,000,000 one million ワン・ミリオン 百万  英語では、,000,000はミリオン。  1,000,000,000 one billion ワン・ビリオン 十億 日本語では、0が八個で億です。  1,000,000,000,000 one trillion ワン・トリリオン 一兆  3桁ごとに読み方が変わる英語と4桁ごとに読み方が変わる日本語ですが、3×4のトリリオンは、日本語でも4×3で「兆」と呼び名が変わりますので、おぼえやすいですね。  1,000,000,000,000,000 one quadrillion ワン・クアドリリオン 千兆  英語の場合、0が3個なら、サウザンド、0が6個なら、ミリオン、0が9個なら、ビリオンとおぼえていけばいいのです。  ところが、日本語の場合、10,000は0が4個だから一万、100,000,000は0が8個だから一億、とおぼえなければなりません。でも、大きな数字でも、声を出して何回も読む練習をしておけば、だいじょうぶです。  たとえば、36,985,247,856という数字があれば、数が八個の位置でのところが億ですから、369億8524万7856とすぐに数えられます。  そろばんが上達するほど、あつかう数が大きくなっていきます。  億、兆のような大きな数字は、声を出して読む練習をしておきましょう。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年7月号

大学入試でかけ算の速さが役立つ!  小学生のみなさんにとって、大学入試はまだまだ先のことですが、そろばんや珠算式暗算に真剣に取り組んでおきますと、大学受験生になったとき、大きなアドバンテージを得ることができます。  山手学院高校部の生徒たちは、東大や京大をはじめとする国公立大学や私立難関大学を目指しています。化学の授業のとき、1⃣のような問題を解く場合、「時間が足りなかったら問4はあきらめるしかないだろう」という前提で、生徒たちに問題を解かせたところ、多くの生徒が時間切れになるなかで、3人の生徒が時間内にスッと終えたので、S先生は驚きました。  S先生の指導経験では、3ケタの数字のかけ算が入りますと、ほとんどの生徒の計算速度が落ち、時間切れになってしまうはずでした。  3人の生徒に「すごいなあ。どうしてそんなに速く計算できるんだ?」と聞きますと、 「珠算式暗算で計算しているんです」  3人ともおなじ返事でした。  みなさんも大学受験で化学を選択した場合には、1⃣のような問題を解くようになります。化学の計算の問題では、ともかく「かけ算が速いこと」が要求されます。かけ算でもたついていますと、あっという間に時間切れになり、合格点がとれなくなってしまいます。  ですから、かけ算が遅い生徒にとっては、時間がかかる計算問題はあきらめるしかありません。  ところが、珠算で鍛えられた3人にとっては、こんな計算問題など、お手のものです。S先生自身、計算は速いほうですが、この3人の速度には歯が立ちません。「そろばん、恐るべし」とS先生はいっています。ちなみに、問4の解き方は、つぎのようになります。  中学受験でも、高校受験でも、大学受験でも、計算を伴う入試問題に対する大きな課題は、計算速度です。なぜなら、入試には制限時間がありますから、計算が遅ければあきらかに不利になります。逆に、速くて正確な計算ができるならば、大きなアドバンテージになります。  この化学の問題を楽々と解く3人の高校生にとっては、むしろ計算で苦労している人たちのほうが不思議に見えるでしょう。計算は速ければ楽ですし、遅ければ苦痛です。  いま、そろばんや珠算式暗算に取り組んでいるみなさんは、ぜひ楽しく学習してください。算数も数学も計算が楽になれば、きっと楽しい教科になります。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年6月号

そろばんで頭脳をきたえる!  日本で「右脳」という言葉を広めたのは、日本医科大学教授であった品川嘉也博士でしょう。ご本人は、交流があったことから、日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士の最後の弟子と称していました。『意識と脳』(1982)ほか、多くの著作を読み直してみますと、大胆な、鋭い考察が多く、いまでもじゅうぶんに通用します。  現在では、すべての人に共通して右脳と左脳が分化しているわけではなく、「脳の機能のかたよりとして、左脳で言語をつかさどる人が多く、右脳でイメージをつかさどる人が多い」とします。また、女性よりも男性のほうが脳の分化がはっきりとしているようです。  そろばんが右脳を活性化するという主張の根拠も、じつは品川博士の実験に基づいています。  「右脳のイメージを使うことによって、脳の情報処理速度が飛躍的に上昇すること」を証明する実験に「そろばんの達人たち」が使われたのです。  数字や数学も一種の言語ですから、「九九は数を操作しているのではなく、言語操作にすぎない。つまり、九九の計算は、八十一個の熟語にすぎない」ということです。ですから、筆算は言語操作である、ということになります。計算は言語中枢を使いますので、左脳的ということです。  これに対して、品川博士は、脳波学的に、  「そろばんの達人たちは、計算しているときに言語中枢をほとんど使わず、右脳で計算している。頭のなかにそろばん球のイメージを浮かべて、イメージ操作をしながら右脳による計算をしている」  と主張します。これは珠算式暗算を習っているみなさんなら、当たり前の練習ですね。  品川博士の言葉を借りれば、そろばんの達人たちは、答えを「見ている」のです。  さて、そろばん熟達者のAさんの脳波分析をおこなったところ、達人がかけ算見取り算の暗算をしているとき、ベータ2波(16.5–20Hz, 脳の思考活動の部位に強くあらわれる脳波)が右脳側と右後頭部(視覚野)に強く出ました。  また、達人のBさんが、読み上げ算の暗算をおこなったところ、同様の結果になりました。読み上げ算にもかかわらず、聴覚野に相当する側頭部や言語中枢に強い脳波は出ませんでした。Bさんは、「計算中、ことばとして意識することはなく、言語は浮かんでこない。そろばんの球が浮かんで見える」といっています。この脳波の測定結果から、「そろばんは右脳を活性化する」といわれるようになりました。  たしかに、珠算式暗算はイメージ操作ですから、言語操作はしません。そして、イメージ操作は、言語操作よりも圧倒的に速いのです。  そろばんの達人たちだけでなく、アインシュタインなどに代表される物理学者たちや数学者たちも、イメージを操作して考える傾向が強いのです。数式で考えるわけではなく、イメージで考えて、数式で表現しているといってもいいかもしれません。  そろばんは、みなさんの頭脳をしっかりと鍛えます。  ぜひ楽しくそろばんの練習に取り組んでください。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年5月号

学校が休みのあいだ、君がやるべきこと  新型コロナウイルスのために、世界中が混乱しています。とくにヨーロッパの国々は、歴史的にペストという疫病に苦しめられてきましたので、多くの人たちが強い恐怖を感じているでしょう。  緊急事態によって、学習の機会を失っている子どもたちが世界中にいます。  しかし、学校が休みだからといって、テレビやゲームやユーチューブの動画にたくさんの時間を費やしてしまうのは、自分の可能性の発展を止めてしまうことです。  なぜ、君たちにとって、テレビやゲームやユーチューブの動画は、よくないのでしょうか?  答えは、テレビやゲームやユーチューブの動画は、受け身でもじゅうぶんに楽しめてしまうメディアだからです。受け身で楽しめますから、あっというまに大量の時間が流れてしまいます。そして、受け身であるかぎり、君たちの思考力や創造力が鍛えられることはありません。  視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のうち、脳では視覚野がいちばん大きいので、テレビやゲームやユーチューブの動画は、わたしたちの脳をかんたんに独占することができます。いいかえれば、わたしたちは、自分の意志を使わずに、いつまでもラクラクと見続けることができます。  いっぽう、音だけのラジオ、文字だけの本、スクラッチなどは、受け身では楽しめないメディアです。ラジオであれば、自分の意志で音や声を聴かなければなりません。意識しないと、聞き逃して、話がわからなくなります。  本はもっとたいへんです。自分で意志をもって読まないかぎり、一ページも読むことはできません。受け身で本を読める人はいないはずです。  スクラッチもおなじです。自分で意志をもってプログラムしないかぎり、なにも始まりませんし、なにも動きません。ゲームは、誰かが組み立てたものをプレイすることですが、スクラッチは自分で組み立ててプレイするものです。自分で組み立てるためには、意志や思考が必要です。  スクラッチを開発したMITのミッチェル・レズニック博士は、ゲームでは育たない創造的思考力を培うためにスクラッチを推進しています。「ゲームに時間を使うなら、スクラッチをやろう!」ということです。  そろばんも、君たちが意志をもって使わないかぎり、そのままですね。そろばんが自分で計算するなんてことは、ありません。  じつは、小学生のみなさんの学力や能力を高めるものは、すべて自分でやらなければならないことばかりです。「読み・書き・そろばん」といいますが、読むことも、書くことも、そろばんの玉を弾くことも、自分の意志を必要としますね。すべて能動的な学習です。  学校が休みのあいだ、君たちがやるべきことは、この能動的な学習です。  小学生の学習の基本は音読ですから、毎日、音読してください。音読することによって、音読された言葉が自分の言葉になっていきます。そして、たくさん読書することです。  また、漢字を覚えたり、文章を書いたりしてください。さらに、絵をかいたり、工作したり、スクラッチしたりしてください。  もちろん、毎日、そろばんを練習してください。暗算に取り組んでいる小学生は暗算も練習してください。  能動的な学習によって、君たちの力はどんどん成長していきます。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年4月号

珠算式暗算は脳の働きを高める!③  珠算式暗算の利点については、①②で書きました。  では、西洋の人たちは、どのように暗算をするのでしょうか?  西洋の人たちの暗算は、珠算式暗算にも応用できる部分もあり、数学的興味も尽きません。  アメリカで暗算といえば、知る人ぞ知るアーサー・ベンジャンミン博士(Arthur T. Benjamin, Ph.D.)です。『マス・マジック』という暗算の教材は、世界中で売れました。日本でも販売されましたので、保護者の方の中にも購入した方がいらっしゃるかもしれません。わたしもかつて購入した一人ですが、現在のベンジャミン博士の講義を視聴してみますと、ますます磨きがかかっています。その講義の内容をかいつまんでみましょう。  暗算は、英語でメンタル・マス(Mental Math)、メンタル・カルキュレーション(Mental calculation)といいます。  暗算の第一段階としては、左から右へ(left to right)で計算すること。たとえば、2300+45であれば、自然に左から右へ、2345と計算するように、「左から右へ」がすべての計算において「より自然で速い」というのがベンジャミン博士の主張です。  暗算は、単純化のプロセスであり、たとえば、432×3は、3×400=1200、3×30=90、3×2=6;1200+90+6=1296と、最も大きい数から最も小さい数へと計算します。  54×7であれば、暗算の場合、7×50(350)と概算して、7×4(28)を足します。350+28=378となります。  ベンジャミン博士は、暗算や数字のおもしろさを伝えるために、さまざまな数字のマジックを紹介しながら、暗算の練習をうながします。  九九の9の段では、9×2=18(1+8=9)、9×3=27(2+7=9)、9×4=36(3+6=9)、9×5=45(4+5=9)、9×6=54(5+4=9)、9×7=63(6+3=9)、9×8=72(7+2=9)、9×9=81(8+1=9)で、9の段の答えの数字を足すと、みな9になります。  11のかけ算も数字のマジックで、2桁の数字に11をかけるときには、かけられる数字のまんなかにその数字の合計がはさまります。  たとえば、23×11 → 2+3=5 答えは253。同様に、35×11 → 3+5=8 答えは385。  41×11は? 同じように考えれば、4+1=5ですから、451ですね。  ところで、48×11のように、4+8=12 足した数が二けたになった場合はどうしたらいいでしょうか?  4(12)8の場合は、(12)の1を繰り上げて、528とします。85×11なら、8(13)5ですから、935です。  では、3桁の数字に11をかける場合はどうでしょうか?  たとえば、314×11 → (3+1=4)(1+4=5)→ 314のまんなかの数字に置き換えて3(4)(5)4、答えは3454となります。425×11を同じようにやってみてください。暗算でできましたか? 4675ですね。  ベンジャミン博士は、アメリカ人ですので、00をハンドレッドhundredと読み、たとえば1100という数字は、イレブン・ハンドレッド、3300という数字はサーティ・スリー・ハンドレッドと表現します。わたしは、最初、とまどいました。  ともあれ、メンタル・マス(暗算)は、左から右へ(Left to Right)です。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年3月号

珠算式暗算は脳の働きを高める②  珠算式暗算は、前頭前野でそろばんのメンタル・ピクチャアを操作することです。  前頭前野の働きが人の知能ですから、珠算式暗算は、実効性のある脳トレであるといえます。脳トレのソフトウエアはいろいろありますが、算数的能力・数学的能力をつちかうには、やっぱり珠算式暗算です。  昭和の初頭、名古屋市新道尋常小学校校長の榊原孫太郎先生が珠算と珠算式暗算を児童たちに指導しました。その実践に基づいて、昭和七年に『一元的算術教育』を出版します。なにごとも論より証拠ですから、この書物に書かれていることは貴重です。  榊原先生の意見をみなさんにわかりやすいようにまとめてみましょう。 『暗算には、能力暗算と珠算式暗算のふたつがあります。小学校で課せられるのは能力暗算ですが、覚えるまでに労力と時間がかかるうえに、数が大きくなると、けっきょく珠算か筆算にたよるしかありません。ですから、能力暗算は、実用向きとしては不便なのです。  珠算式暗算は、脳に思い描いたそろばんを使って計算する方法です。そろばんを抽象的にイメージして計算しますから、実際にそろばんを使って計算すること以上に、正確に速く、五六桁以内の加減乗除はかんたんです。  おどろく人もいますが、そろばんを弾くことができる人であれば、だれでも可能ですし、難しいことではありません。暗算の練習をしていないから、できないだけです。  ためしに目を閉じて、そろばんを思い浮かべて、2+3の計算を思い描いてみれば、おぼろげであっても梁(はり)の上の五玉を下ろし、梁の下の玉二個を払って、5という答えを得るでしょう。  珠算式暗算の基礎は、数をそろばんの形にして脳に思い浮かべることです。手始めに、残像を利用しましょう。たとえば、そろばんに二十六と置いて、約三十秒、これを注視して、目を閉じれば残像が残ります。(脳の記憶域のワーキングメモリーの働き)この残像を維持しながら、計算していくと、順次、玉の変化したそろばんのイメージが頭に残ります。答えは、脳に浮かんでいるそろばんを読めばいいのです。一学期のあいだに、四桁・五桁くらいのイメージができるようになります。  そろばんのイメージの確かさをチェックするためには、たとえば、3467を脳に描いたそろばんに置き、それを下の桁からいわせると、7643といえますし、基数の和を問えば20と答えられます。そろばんを脳に描けているならば、かんたんです。  じゅうぶんにイメージ練習ができたならば、一桁の補数練習、二桁の補数練習を行い、加法の練習から始めましょう』(以上、引用および書きかえ)  このあと、人の記憶に、視覚型、聴覚型、筋肉型、混合型等があることが説明され、榊原先生の実践では、多くの児童が視覚型と筋肉型の混合であったことが報告されています。筋肉型というのは、空中にそろばんがあるかのようにイメージして、手指を動かしながら暗算するタイプのことです。  児童たちのうち、視覚筋肉両型の混合型がもっとも上達したようです。そういっても、手指を動かすような動作は初歩のうちで、熟練した児童たちは、よそ見をしながらでも、笑いながらでも、落書きをしながらでも、正確に、敏速に計算していて、外から見ただけでは計算しているように見えなかったようですから、たいしたものです。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年2月号

珠算式暗算は脳の働きを高める。  鉛筆やそろばんを使わない計算を暗算といいます。  鉛筆を使わない暗算には、九九や円周率や平方根の数の暗記から、基礎暗算、実用暗算、補助暗算、予備暗算のような種類があります。なんども練習して覚えるので、能力暗算ともいわれますし、暗記的計算ともいわれます。  ちなみに、英語圏の学生は、円周率の近似値を覚えるのに、Yes, I know a number.(はい、数字を知っています)と覚えます。アルファベットの数を数えれば、Yes, (3.) I (1) know (4) a (1) number (6) で、3.1416 ですね。  いっぽう、珠算式暗算は、頭にそろばんを思い浮かべて計算することです。  ちょっとそろばんを思い浮かべてみてください。そうして、そのそろばんの玉を弾いて計算してみてください。  一+三=  四+六=  一〇+一五=  二五+三二=  ふだん、そろばんをしっかり練習しているみなさんなら、きっとできるはずです。  さて、みなさんが思い浮かべたそろばんのことを、神経科学の世界では、メンタル・ピクチャア(mental picture ・心的イメージ)といいます。  実物を見たことがあれば、かんたんです。  つぎの言葉を思い浮かべてみましょう。  いぬ  ねこ  かえる  おかあさん  そろばん  どうですか。  思い浮かびましたか。  メンタル・ピクチャアは、自分が好きなイメージでかまいません。「いぬ」がブルドッグであっても、チワワであっても、セントバーナードであってもいいのです。  いぬを思い浮かべたら、そのいぬを走らせてみたり、ジャンプさせてみたり、骨をくわえてもどらせてみたりしてください。  できましたか。  ねこでも、かえるでも、おかあさんでも、そろばんでも、おなじようなことができるでしょう。ねこなら、ねむらせてもいい。かえるなら、およがせてもいい。おかあさんなら、料理をしてもらってもいい。そろばんなら、パチパチと音を立てながら指で玉を弾いてもいいでしょう。  メンタル・ピクチャアを思い浮かべて、それを動かすのは、脳の前頭前野の働きです。この働きを強めることができると、みなさんの記憶力や学習能力はグンと高まります。  パソコンやパッドの画面でそろばんを操作するソフトウエアもありますが、わたしは推奨しません。  実物のそろばんを使って計算し、そのそろばんをメンタル・ピクチャアとして思い浮かべて計算(つまり暗算)することのほうが、脳のトレーニングとしてもっと有効でしょう。なぜなら、ふだん実物のそろばんを使って練習していますから、視覚だけでなく、聴覚も、触覚も、そろばんを舐めたり嗅いだりすれば、味覚や嗅覚もイメージに参加することができるからです。当然、メンタル・ピクチャアの臨場感が強くなりますから、みなさんはリアルにメンタル・ピクチャアのそろばんを操作することができるでしょう。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2020年1月号

子年は成長の一年です。  二〇二〇年は子年です。子年には、ネズミを動物として当てます。  紀元前二〇〇年代の秦の時代の竹簡に「子、鼠也」と書かれているそうですが、理由を説明していません。漢字の世界では、音が共通する漢字は意味が関連すると考えます。江戸時代に書かれた『和漢暦原考』(石井光致)を見ると、『「子」は「滋」(繁殖・生長)「孳」(繁殖)であり、つとめて止まず、ますます増える』とあります。みなさんが「子の字があらわす、つとめて止まず、ますます増える動物はなあに?」というクイズに答えるとしたら、どんな動物を思い浮かべるでしょうか?  十九世紀までであれば、中国人に限らず、日本人でも、ヨーロッパ人でも、「ネズミ!」と答えたのではないでしょうか。それほど、ネズミはどんどん増えるのです。  さて、和算・そろばんの世界で、ネズミといえば、まっさきにネズミ算が思い浮かびます。  「正月に、ネズミの父母が子を十二匹生む。親と合わせて十四匹。このネズミたちが一組の父母になって、二月に十二匹ずつ生む。合計で九十八匹。このように、親も子も孫も曽孫も、毎月、十二匹ずつ子ネズミを生むと、十二月には合計で何匹になるだろうか? ※月々に生まれる十二匹はオス・メス半数ずつ」  もとは江戸時代にまとめられた塵劫記(じんこうき)という和算の教科書に載っているのですが、明治・大正になっても、算術や珠算の教科書に取り上げられています。  月々を計算していくと、  一月 親(父母)ネズミが子ネズミ12匹(オス6匹・メス6匹)を生んで、合計14匹。  二月 生まれた子 84匹 合計98匹。  三月 生まれた子 588匹 合計686匹。  四月 生まれた子 4,116匹     合計4,802匹。  五月 生まれた子 28,812匹     合計33,614匹。  六月 生まれた子 201,684匹     合計235,298匹。  七月 生まれた子 1,411,788匹     合計1,647,086匹。  八月 生まれた子 9,882,516匹     合計11,529,602匹。  九月 生まれた子 69,177,612匹     合計80,707,214匹。  十月 生まれた子 484,243,284匹     合計564,950,498匹。  十一月 子 3,389,702,988匹      合計3,954,653,486匹。  十二月 子 23,727,920,916匹      合計27,682,574,402匹。  となり、答えは、二百七十六億八千二百五十七万四千四百二匹になります。  もちろん、珠算では、こんな遠回りはしません。わたしの手元にある『新選珠算実習書』(大正六年)には、「まずこの算法は実(被乗数)に二匹を置き、法(乗数)に七と置き十二度乗ずれば知るなり」と説明してあります。数式であらわせば、  こういった考え方でも珠算と数学はつながっています。珠算に加えて、数学的な発想ができれば、さらに計算は速くなるのです。  陰陽の思想でいいますと、子年は陽が兆す年です。みなさんにとっては成長の年になります。  いい一年にしていきましょう。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2019年12月号

定位法・片落とし・両落とし  江戸時代から、そろばんには流派がありました。  おなじ割り算でも、みなさんとおなじようにかけ算の九九を使う流派もあれば、別にわり算の九九を覚えて、それを利用する流派もありました。  かけ算のとき、かけられる数とかける数の両方をそろばんに置く方法を「定位法」、かけられる数を置く方法を「片落とし」、どちらも置かない方法を「両落とし」といいますが、みなさんはどの方法を使えばいいのでしょうか。  いろいろな意見がありますから、判断に苦しむかもしれません。  わかりやすく説明すれば、みなさんが初めて自転車に乗るときとおなじです。  自転車に乗ることにものすごく不安であれば、自転車の後輪の左右に補助輪を付けます。不安が小さくなりますと、片方をはずして、片方だけ残すことがあります。しかし、上手に乗れる見込みが出てきますと、両方の補助輪を外してしまいますね。  将来的に「そろばん式暗算」を身につけようと考えている場合、最初から「両落とし」で練習しておきますと、暗算の習得がスムーズになります。また、計算に速度を求める場合も「両落とし」になります。  最初のころは「定位法」や「片落とし」よりむずかしく感じる「両落とし」ですが、小学生の脳は柔軟ですから、安心してトライしてください。大人がもたもたしている横で、小学生は「両落とし」でどんどんそろばんの玉を弾くことができるようになります。  小学生の有段者のほとんどは、「両落とし」で練習しているのではないでしょうか。  保護者様の世代の方には、わたしがお話ししたかぎりでは、「片落とし」で学んだ方が多く、「両落とし」「定位法」と続きます。有段者になると、やはり両落としです。  もしかしたら、そろばんの先生たちが「初学者の生徒たちにどれだけの力をつけたいか」と考えたとき、人の心理として、なんとなく平均的な「片落とし」を選んでしまうのかもしれませんね。計算まちがいを減らすために「片落とし」を選ぶ先生もいるでしょう。  しかし、大人はたいてい子どもたちの能力を低く見積もってしまいます。大人よりも子どものほうが「両落とし」をマスターすることが早いのです。  もちろん、どの方法にも長所と短所がありますから、さまざまな目的に応じて方法を選んでもいいのです。それでも、学習でも、習い事でも、スポーツでも、芸術でも、やるからには、高みを目指したほうがいいと思います。高みを目指すからといって、苦労は不要です。みなさんが自発的に「やりたい」という気持ちで取り組むなら、そろばんの練習に楽しく持続して取り組むことができます。  そろばんを前にしたら、目をつぶり、肩の力を抜いて、リラックスしてください。  目を開けて、「やるぞ」と気合を入れて、あとは「楽しく」取り組むだけです。 学院長 筒井保明