Archive List for そろばん通信

そろばん通信|2021年3月号

そろばん名人のひみつ  3+3を6と答えるとき、「3+3」に対して、反射的に「6」という言葉を答えることを暗記的算数といいます。暗記的算数に関して、わたしは、九九などを除いて否定的な意見をもっていますが、計算能力として、 1+1は、2 2+2は、4 3+3は、6 と反射的に覚えさせる教授法があることは事実です。暗記的算数のまま、小学生の算数をずっと先まで教えてしまう教室もあります。  でも、これでいいのでしょうか?  暗記的算数は、どこまでいっても言葉の操作です。言葉の操作ですから、自由自在に広がることができません。  物理学者のアインシュタインは、「数学でも物理でもイメージを操作した」と自分でいっています。重要なのは、言語の操作ではなく、イメージの操作です。  上の計算をイメージに置き換えますと、 ●+●は、●● ●●+●●は、●●●● ●●●+●●●は、●●●●●● になります。  わたしは、イメージの操作こそ、小学生が学ぶべき方法だと考えています。  そろばんは、そろばん上のイメージの操作です。数学史的にいっても、小学生にふさわしい学習です。  ひとの思考のおおもとはイメージです。ずいぶん以前、「ひとは言葉で思考する。言葉がなければ思考できない」といわれていましたが、現在では「ひとはイメージで思考して、言葉で表現する」といわれます。  たとえば、朝、コーヒーを入れようと考えます。お湯をわかし、コーヒー豆をひき、カップを用意し、ドリッパーをカップの上に置き、紙フィルターを開いてドリッパーに置き、ひいたコーヒーの粉を入れ、お湯を少し注ぎ、ちょっと蒸らしてから、さらにお湯を徐々に注ぎます。  この行動に対して、最初は意識して言語化するかもしれませんが、なんどもコーヒーを入れて慣れてきますと、もう言語化することはありません。だまって、コーヒーを入れます。  このコーヒーを入れるという行動を行わせているのは、イメージによる思考です。  もしできあがったコーヒーの味がまずければ、コーヒー豆のひき具合を変えるとか、お湯の入れ方を変えるとか、言葉ではなく、イメージで思考します。コーヒーを上手に入れるためには、実践が必要なのであって、言葉ではありません。  じつは、そろばん名人のひみつもおなじです。  そろばんを習い始めのころは、意識して言葉にあらわすかもしれませんが、慣れてきたらイメージで計算して、最後の答えだけを言葉にあらわします。計算の途中段階をいちいち言葉になおしていたら、速い計算はできません。究極のそろばん名人は、無意識のなかでイメージを操作しているのです。  暗記的算数の欠点はイメージをともなわないことにあるとわたしは考えています。  そろばんを見て(イメージして)、明るい気持ちで、楽しくそろばんに取り組みましょう。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2021年2月号

五玉の発明  前回、小学生低学年のみなさんを悩ませる「さくらんぼ計算」は、さまざまに考えられる計算の仕方のひとつだということを話しました。  基本として、数をドッツ(dot・dots)としてとらえられるなら、かんたんだよ、ともいいました。  数をドッツとしてとらえるというのは、  1は、●というドット。  2は、●●というドッツ。(英語は複数形になるとdotにsがついてdotsになります)  おなじように、  3は、●●●  4は、●●●●  5は、●●●●●  6は、●●●●●●  7は、●●●●●●●  8は、●●●●●●●●  9は、●●●●●●●●●  10は、●●●●●●●●●●  11は、●●●●●●●●●●+●  12は、●●●●●●●●●●+●●  数字が大きくなるにつれ、●がどんどん増えていきます。もともとの数字のもとは、●に象徴されるなにかの物体です。●があらわすものは、🍎かもしれないし、🍊かもしれないし、🐶かもしれないし、🌳もしれません。1000という数字をあらわすのに、数字がなかったら、●を1000個、書かなければなりませんね。数字や算数は、計算の便利のために生まれたものです。  さくらんぼ計算というのは、8+7の場合、●●●●●●●●+●●●●●●●ということであり、ひとつずつ数えるのがめんどうなので、一けた、くりあがる10(●●●●●●●●●●)をつくって、のこりの5(●●●●●)を足し、15という答えを出すやり方です。さくらんぼ計算では、8(●●●●●●●●)+7(●●●●●●●)を8(●●●●●●●●)+2(●●)+5(●●●●●)=10+5=15と考えるので、なんだかめんどうに感じるのです。  でも、このやり方は、そろばんに似ていませんか?  もし、そろばんに五玉がなくて、一玉が9個だったら、さくらんぼ計算とおなじような考えかたをするのではないでしょうか。  でも、五玉がないそろばんは、幅が大きくなりますから持ち運びにも不便ですし、指を動かす回数もずいぶん増えてしまいます。  そこで、知恵のある誰かが、五玉を発明したわけです。  こんど、そろばんの練習をするとき、もし五玉がなかったら、と考えてみてください。五玉を考えた人は偉いなあ、と思うのではないでしょうか。  十進法を使用するわたしたちにとっては、現在のそろばんはとても効率的な形になっています。梁の上側に1つの五玉、梁の下側に4つの一玉という形です。  ところで、わたしが持っているそろばんは、梁の上側に2つの玉、梁の下側に5つの玉になっているものです。中国の尺貫法では1斤が16両と定められているので、16進法の計算ができるためだそうです。  また、コンピューターに使われる2進法の計算をするために、五玉だけの算盤もあるようです。  とてもおもしろいですね。 学院長 筒井保明

そろばん通信|2021年1月号

さくらんぼ計算は考えかたのひとつ  「さくらんぼ計算」は、考えかたのひとつであり、計算方法のひとつです。ところが、計算の答えがあっているにもかかわらず、やり方がさくらんぼ計算になっていないと、△や×をつけたり、ひどい場合は、叱ったりする小学校の先生がいるようです。  文科省としては、「こういう考え方もあるよ」というレベルの話なのですが、勘違いした先生が無理強いすると、子どもたちが混乱してしまいます。  小学校学習指導要領【算数編】から、小学生や保護者の方を悩ませるさくらんぼ計算に該当する部分を引用してみましょう。  「様々な計算の仕方が考えられる」と明記されています。  数字をドッツ(Dots)としてとらえられるなら、かんたんなことですし、わたしたちが頭のなかで無意識にやっていることでもありますから、さくらんぼ計算をめんどうに感じていやがる小学生の気持ちもわかりますね。  こういった問題は、そろばんにも、暗算にも、存在します。  江戸時代、そろばんには、多くの流派がありました。割り算にも九九があり、吉田松陰先生も松下村塾で教えていました。明治、大正、昭和の初めごろまで続いていたようですが、みなさんは、おぼえません。  現在では流派の色はあまり濃くないのですが、たとえば、かけ算のとき、かけられる数とかける数をそろばんに置くか置かないか、先生によって分かれたりします。両方置く先生、片方置く先生、どちらも置かない先生、また、生徒の学年や習熟度によって使い分ける先生がいます。  正しい答えを得ることにちがいはないのですから、どれを選ぶか、君たちが決めてもよいのです。  ところで、西洋式暗算Mental MathにもLeft to Right(左から右に計算する)派とRight to Left(右から左に計算する)派がいますが、わたしはLeft to Right(右から左に計算する)派です。つまり、大きい数のほうから計算します。  山手学院のそろばん指導者である西岡先生のような達人なら、ただちにそろばん式暗算で正確な答えを得るでしょうが、西洋式暗算の場合、たとえば、15,280円の品物と23,120円の品物を買うとき、15,000円と23,000円を先に足して38,000円を得てから、400円を得て38,400円になります。これが、西洋式暗算Left to Right(左から右に計算する)派の足し算です。「すばやく概算を得れば、生活上も便利ではないか」というのがLeft to Right(左から右に計算する)派です。  小学生低学年のみなさんは、もしかしたら、さくらんぼ計算に悩まされるかもしれませんが、計算の考えかた、計算のしかたは、いろいろあることを知ってください。  そろばんは、計算の考えかた、計算のしかたとして、歴史と伝統のあるものです。  リラックスして、たのしくそろばんに取り組みましょう。 学院長 筒井保明