もっとすごい自分になる!
Be Your Better Self.
目の前に自信を失っている生徒がいたら、それがだれであっても、どんな状況であっても、無条件で「君はできるのだから、やってみよう」と励ます。「自分はできる」と信じれば、だれでもできるようになるからだ。
もちろん、効率的な学習習慣や効果的な学習方法など、具体的なことも教える。
けれども、「自分はできない」と思い込んでいるとき、どんな方法も役に立たない。思い込みの極端な例が強迫観念で、やる前から「できないとばかにされる。できないと叱られる」と恐れや不安を感じておびえてしまう。このとき、脳の偏桃体がネガティブな感情を増幅して、情報処理をつかさどる脳の海馬の働きを妨げるので、けっきょく学習することができない。
たとえば、アルプスの少女ハイジは、文字が読めなかった。令嬢クララの家庭教師が必死に学習を詰め込もうとしても、ハイジは学習を吸収することができなかった。なぜなら、羊飼いのペーターに「文字を読むことはできないよ」と何度も何度もいわれたので、「文字は読めない」という思い込みが根付いてしまっていたからだ。家庭教師も「この子には無理だ」と思いながら教えていた。
家庭教師から「ハイジは学ぶことができない子どもだ」と報告されたクララの祖母は、「ハイジはかならず読めるようになる」と反論した。
クララの祖母は、笑顔でハイジに近づくと、アルプスに関する絵本を手渡して、まず「読みたい」という気持ちをハイジから引き出した。そして、「読むことはできる」という確信をハイジに与えてから、読むことを教えた。すると、ハイジは、みるみるうちに本が読めるようになった。
ハイジの学習を妨げていた思い込みをメンタル・ブロックという。「自分はできない」という思い込みがメンタル・ブロックだ。
学習にかぎらず、スポーツでも、芸術でも、「自分はできない」というメンタル・ブロックが最大の障害物である。「できないこと」は、だれでもいやになる。いやになったら、やりたくなくなる。やりたくないことは、なかなかできるようにならない。遅かれ早かれ、多くの人たちが「できないこと」から逃げ出してしまう。
クララの祖母がすばらしい教育者であることは、最初に「読みたい」という気持ちをハイジから引き出したことでわかる。だれでも、やりたいことは、進んでやるだろう。この自発性が、学習のカギだ。
つぎに、「かならずできる」という確信を与えたことも重要だ。教師が「この生徒はかならずできる」という確信を持っていれば、目の前の生徒も「わたしはできる」と自然に確信できる。これは非言語的な要素なので、口先で「君はできるよ」といってもあまり効果はない。クララの家庭教師は「ハイジには無理だ」と思って教えているから、ハイジはできるようにならなかった。クララの祖母は「ハイジはできる」と確信しているから、ハイジはできるようになった。ハイジがメンタル・ブロックを外すことができたのは、クララの祖母の確信度のおかげである。
わたしたちは、君たち一人ひとりがかならずできるようになると確信している。
「もっとすごい自分になる!」(Be your better self.)というのは、新年度のテーマの一つだ。君たちは成長過程にあるので、君たちのベストはまだまだ未知である。現在の君より、未来の君はもっとすごい君であるはずだ。
「できる」という確信をもって、しっかり取り組んでいこう。
学院長 筒井保明