学校が休みのあいだ、君たちがやること (教科書の全体をおおまかにつかんでおくこと)

まず意志を持つこと
 新型コロナウイルスが広がることによって、世界中が混乱しています。
 学校の休校や図書館の休館が続き、もしかしたら君たちの学習も止まっているかもしれません。テレビやゲームやYouTubeの動画などにたくさんの時間を費やしていませんか? 残念ながら、どれも君たちにとっては気楽に見たリ、プレイしたりできる、君たちが受け身になるメディアですから、君たちの学力や能力をほとんど高めることはありません。
 学習でも、スポーツでも、芸術でも、取り組むためには自分の意志が必要です。
 Where there's a will there's a way. (意志があるところに、道・方法がある)という英語のことわざのとおりで、「やりたい、やるぞ」という意志があるから、進む道があり、達成する方法があるわけです。
 君たちの学力や能力を高めるものは、最初に君たちの意志を求めます。
 学習でも、スポーツでも、芸術でも、君たちがすすんで能動的に取り組むとき、君たちの学力や能力は高まるのです。

キーワードは、「自分の声」と「全体」
 さて、何人かの小学生や中学生から、「教科書が手に入りました。どうしたらいいでしょうか?」という質問がありました。
 図書館が閉まっていて本が借りられない状態ですから、目の前の教科書を使う(過年度の教科書でも、新年度の教科書でもかまいません)、とっておきの学習方法を教えましょう。
 この学習方法のキーワードは、「自分の声」と「全体」。
 まず、人は、音声言語として、言語を身につけます。それも、聞くだけでは足りず、自分の声を発し、自分の声を自分で調整しながら、その言葉を自分のものにします。
 ですから、国語が苦手な原因も、英語が苦手な原因も、専門的な用語が多い社会科や理科が苦手な原因も、多くの場合、自分の声を使用していないところにあるのです。(思い当たりませんか?)数学も言語ですから、もしかしたら数学が苦手な遠い原因も、おなじかもしれません。
 そこで、自分の声のトレーニングとして、国語でも、社会でも、理科でも、英語でも、教科書を音読します。学ぼうと意識する必要はなく、楽しい読み物を軽く読むような感じで、教科書全体を最後までとおして音読してみましょう。
 気をつけなければいけないのは、読めない文字(漢字でも英語でも専門用語でも)は、調べたり、聞いたりして、正しく読めるようにすること! まちがえておぼえてしまうと、あとで直すのに苦労します。
 かつて日本の知性といわれた学者がベルリンの壁の崩壊を解説するとき、「本質的に、にんげんは、キジャクですからね」とくりかえしたことがあり、みんなが首をひねりました。横文字をまじえるクセのある学者でしたので、途中で「フラジャイル」と口走ったとき、「ああ、キジャクとは、脆弱(ぜいじゃく)のことか」と、はじめて合点がいきました。名前は伏せますが、日本を代表する知性でも、まちがえておぼえてしまうと、なかなか訂正できないものなのです。
 まちがえておぼえないように気をつけながら、まず、音声として言葉をおぼえるようにしてください。もちろん、音声だけでは試験に通用しませんから、音声としておぼえた言葉や用語や英単語を、つぎは、書けるようにします。
 「読めることが先。書けることが後」です。これは小学生でも中学生でも共通です。

先に全体に目をとおしておくと、きちんと理解することができる
 つぎに、教科書を最後まで読んでしまうことです。
 漢字や用語や英単語をまちがえずに読めるなら、おぼえようと意識しないで、国語や社会の教科書、また英語の教科書をまるまる音読・黙読してしまいましょう。学校が始まって、それぞれの教科を学習するとき、まちがいなく理解が速くなります。音読ですと、たしかに時間はかかりますが、自分の声を発して読んでおくだけでも、学校が始まったとき、その効果を実感することができるでしょう。先生の説明を自分の言葉として聞くことができるようになっているからです。(一冊全部に自信がない人は、とりあえず三分の一でも)
 じつは、教科書をとおして読んでおくことには、もっと重要な効果があります。
 むかしの考え方のまま、学習はレンガを積み上げるように「部分の積み上げ」であると思っている先生が多いのですが、これはまちがいです。たとえば、レンガで教会を作るとして、予想される教会の全体像が見えていないとしたら、はたして教会はできあがるでしょうか。
 また、哲学であれば、アリストテレスでも、ニーチェでも、西田幾多郎でも、まず、だれかの一冊を最後まで読んで、おぼろげに全体像をつかみます。そうしてから、何度もくりかえして読みますと、書かれている内容が理解できるようになります。なぜなら、哲学者の頭のなかには思考の全体像(イメージ)があって、その全体像に対して思考(文)を組み上げていくからです。つまり、全体と部分が双方向に働きながら世界ができあがっていますので、一回、読んだだけではわからないのです。
 よくできた教科書も、おなじです。教科書の編集作業は、その教科の全体像が先にあり、それぞれのページを集めて一冊の教科書に編集していきます。
 ですから、全体をおおざっぱにつかんでから、こまかく学習していくほうが効果的なのです。
 そもそも教科書はくりかえして読むように編集されています。参考書というのは、教科書を読むための参考ですから、「教科書をくりかえして読むこと」が先であり、基本です。

1学期に大きな飛躍をしよう!
 「自分の声」と「全体」の意義がわかりましたか?
 音読も、黙読も、教科書を読みとおすことも、君たちの意志がなければ、1ページもすすみません。ここに書いたことは、学校が始まって、実際の学習に取り組む前の、重要な下準備です。ぜひ、やってみてください。
 ところで、もっと重要なことがあります。
 受験生であれば志望校を持つことかもしれませんが、学習にも、スポーツにも、芸術にも、自分の目標が必要です。
 君たちは、目標にむかって成長します。
 目標がなければ、人は前に進むことができません。
 もちろん、君たちの成長にしたがって目標も変化しますから、いまの自分が心から実現したいことであれば、どんなものでもいいのです。
 君たちの意志があるところに、君たちが進む道があり、目標を達成する方法があります。
 君たちの飛躍を期待しています。