そろばんは楽しい。

 そろばんは手をつかいます。手は脳の運動野のおよそ三分の一、感覚野のおよそ四分の一を占めていますから、手を動かすことの重要さがわかるでしょう。脳の運動野と感覚野にとっては、手は身体の中でいちばん大きな部分なのです。
 そろばんを練習して、そろばんが得意になってきますと、そろばんに対応する脳の部位が発達してきます。そろばんができなかった自分とそろばんができる自分は、もうちがう自分です。なにかができるようになると、そのぶん、かならず自分の可能性が広がります。ですから、どんな学習でも、すすんで身につけるようにしましょう。
 そろばんと暗算の関係は、そろばんの土台のうえに暗算があります。「意識する・意識しない」にかかわらず、そろばんを習得した人が暗算をするとき、そろばんによって発達した脳の部位が活性化します。同じように、ピアノを習得した人がピアノの演奏を聴くと、ピアノによって発達した脳の部位が活性化しますし、サッカーの選手がサッカーの試合を観戦すると、サッカーによって発達した脳の部位が活性化します。英語では脳の発火(ファイア)といって、カチッと火がつくイメージです。
 さて、脳が指令を出してそろばんをはじくわけですが、実際にそろばんをはじくと、その動きが脳によって学習されます。計算する指の動きが運動野や感覚野によって調整され、練習をくりかえすと、速く、正確に、どんどん上達していきます。
 音読も同じです。最初はたどたどしくても、なんども声を出して読んでいるうちに、自分の口や舌が運動野や感覚野によって調整されて、じょうずに読めるようになっていきます。じっさい、言語は、自分の声を調整しながら身につけるものですから、日本語にかぎらず、外国語も声を出すことが必要です。
 明治時代から、「読み書きそろばん」は、日本人が身につける基本の学習です。音読で声を出すこと、文を手で書くこと、そろばんのたまを指ではじくこと。すべて脳の運動野と感覚野をつかいます。小学生のとき、脳の運動野と感覚野をつかって学習することは、脳の発達にとっても重要なことなのです。見るだけ、聞くだけの受け身の学習ではあまり身につきません。
 そろばんは楽しいものです。みなさんがそろばんを練習するときには、ぜひリラックスして、らくな気持ちでおこなってください。かたくなったり、あせったりしたのでは、なかなか上達しません。楽しく練習するのが、そろばん上達のひけつです。
 音読やそろばんが得意になると、国語や算数が好きになります。学習は「好きこそものの上手なれ」です。
 笑顔で、楽しく、そろばんに取り組みましょう。


学院長 筒井保明