もっとも重要な時間

The most important time

 「もっとも重要な時間The most important time」を英語で検索したら、アメリカの公民権運動を指導したキング牧師のテレビ・インタビューが表示された。
 わたしとしては、ぜんぜん違うことを予期していたのだが、思わぬものがあらわれた。
 キング牧師のインタビューを抄訳すると、
「いまが、自分の人生を決める重要な時だ。問題は、君が、本質的な、固い、健全な計画をもっているかどうか。君の計画に必要なもの、一つ目は、自分という威厳、自分という価値、自分という人物に対する深い信念だ。他人は関係ない。二つ目は、原則として、君が取り組む様々な分野で、すばらしさを達成する決意だ。あくまで自分がどうするか、自分で決めていく。樹になれないなら、茂みになれ。公道になれないなら、畦道になれ。太陽になれないなら、星になれ。サイズなんて、関係ない。君がなれるもので、ベストになれ。三つ目は、真善美の永遠の原則に従うことだ。いわゆる豊かな人生は、水晶の階段で、わたしたちのものじゃない。でも、わたしたちは、動き続けなければならない。進み続けなければならない。君が飛べないなら、走れ。君が走れないなら、歩け。君が歩けないなら、這え。なんとしてでも、動き続けろ」
 水晶の階段crystal stairという言葉は、ラングストン・ヒューズという黒人の詩人の「母から子へ」のなかの一行「わたしにとって、人生は、水晶の階段じゃなかった」を踏まえている。ヒューズの詩もすばらしい。最後の連だけ訳すと、
「振り返っちゃいけない。つらくても、階段に腰を下ろしちゃいけない。いま、くじけちゃいけない。なぜなら、お母ちゃんだって、まだ進んでるんだ、かわいい子よ、お母ちゃんだって、まだ登っているんだ。わたしにとって、人生は、水晶の階段じゃなかったけどね」Mother to Son by Langston Hughes
 水晶の階段は、階段の踏み板の表面に水晶が散りばめられていたり、階段の手すりが透明なクリスタルであったり、手すりを支える親柱や柱が水晶であったり、階段全体がキラキラしていたりするような、とても豪華な階段だ。この階段をのぼるのは、白人の富裕層にちがいない。
 いっぽう、公民権運動で全米が揺れ動いていたとき、黒人たちは、鋲が出て、木の破片が散らばる、ボロボロになった板きれの、カーペットのない、むき出しのままの踏み板の階段をのぼり続けていた。そして、一つの踊場にたどり着くと、角を曲がって、また、ガタピシした階段をのぼり続けていたのだ。真っ暗闇に入りこんだことも一度や二度ではなかった。ヒューズの比喩を使ったけれど、黒人たちの苦難が想像できるだろうか。
 苦難を前にして、キング牧師は、「自分の人生を決める重要な時だ」といった。
 自分という威厳、自分という価値、自分という人物に対する深い信念は、すべての人にとって最初に必要なものである。
 君も自分の目標に取り組むとき、まず、この信念があるかどうかを問うてみよう。
 自分という威厳とは、容易に左右されない自分の態度のこと。
 自分という価値とは、容易に左右されない自分の心のこと。
 自分という人物とは、容易に左右されない自分自身のこと。
 さあ、信念を持って、目標につながっている「自分の階段」をのぼっていこう。

学院長 筒井保明