学習速度を上げよう!

Speed Up the Learning Process

 遊びたい。でも、お母さんに「宿題をやってから」と命じられている。このとき、小学生は、大急ぎで宿題に取り組むだろう。学習の過程で、大急ぎでやることは、学習速度自体を上げるためにも重要なトレーニングになる。入学試験のように制限時間があるときには、読むのでも、書くのでも、解くのでも、速くやるしかないのだから、「大急ぎでやる」という意識は必要なものだ。
 前号で大宮高校の先輩の話をしたが、彼の最大の課題がこの学習速度である。遅くやればできるのだけれど、物理的な量が多すぎて、終わらない状態になっている。前回、頭をよく働かせる方法は述べたので、今回は、学習速度を速める方法を説明しよう。
 学習は、基本的に運動と同じである。運動も学習も「やる気分子」と呼ばれるドーパミンが脳内に分泌されて起動する。「走ろう」と思って走り出し、「もっと速く走ろう」と思って訓練すると、もっと速く走れるようになる。だから、学習速度を上げたいのならば、「速くやろう」という意志が必要だ。「焦る」「慌てる」は感情に支配された状態なので、むしろ遅くなる。あくまで「速くやろう」という意志で取り組み、もっと速くしたいなら、繰り返し訓練していく。
 神経細胞のレベルでいえば、同じ刺激を繰り返すことによって、神経細胞がシナプス結合を起こす。「学」が最初の刺激、「習」が繰り返しの刺激である。シナプス結合によって、情報の伝達が可能になり、さらに同じ刺激を繰り返すと、神経細胞の軸索に髄鞘ができ、情報の伝達速度がより速くなる。わたしたちの実感では、それまで意識しながらコツコツやっていたことが、何度もやっているうちに無意識に速くできるようになる感じだ。だから、単純な学習は、意識して速度を上げながら、繰り返しやればよい。
 では、複雑な学習は、どうすればいいのだろうか。学習の過程をかんたんに図にまとめたので説明すると、わたしたちは、学ぶとき、目や耳や口や手などを使って学習を知覚する。(知覚されないものは忘れられる)つぎに知覚された学習が稼働記憶・短期記憶として反復される。このとき、長期記憶(すでに持っている記憶)を検索し、長期記憶と照会しながら、新しい学習を確定していく。(不必要なものは忘れられる)新しい学習は、ひとまず短期記憶として海馬に蓄えられる。つまり、目の前の学習とは、長期記憶と関連させながら、新しいもの、身についていないものを短期記憶として準備することなのだ。(短期記憶は、睡眠によって長期記憶になる)
 どの教科であっても、新しいものが多ければ多いほど、反復が必要になり、学習に時間がかかる。長期記憶が豊富であればあるほど、反復されるものが減り、学習時間は短くなる。長期記憶が豊富であるということは、すでに知識や身についていることがたくさんあるということだ。
 結論をいうと、たくさん学習して、知識が増えれば増えるほど、できることが増えれば増えるほど、学習速度が速くなる。誰でも得意な教科の学習速度は速いのだ。
 学習のコツは、竈のご飯炊きに似ている。「はじめちょろちょろなかぱっぱ、ぶつぶついうころ火を引いて、一握りの藁燃やし、赤子泣いても蓋とるな」
 君たちの学習は、まだまだ「はじめちょろちょろ」である。「ぱっぱ」「ぶつぶつ」と沸騰するほど学習して、あとはぐっすり眠ればよい。蓋をとるころ(起きたとき)、君の脳の処理速度は速くなっている。

学院長 筒井保明