そろばんは体感だ!
数学史で九九の歴史をさかのぼりますと、半九九、また逆九九の記録が先に登場します。
わたしたちがおぼえる総九九が日本で採用されたのは1925年ですから、それほどむかしではありません。
九九は、基本的に暗記します。イメージを操作することもできますが、一般的には、数字という言語を使用した暗記といっていいでしょう。
前回、3×3=9(さざんがく)、4×2=8(しにがはち)のように、「が」が残ったのは、そろばん教師のおかげであったことを話しました。当時の文部省は、(さんさんく)とか(しにはち)のように、「が」を捨てる指示を教師にしていたのです。
せっかくそろばん教師たちが、唱えやすいように「が」を残したのですから、みなさんは声に出して九九を暗記しましょう。
ところで、最近、総九九を逆にひっくりかえした逆九九表を学習プリント.comが無料で提供しています。
9×9=81(くくはちじゅういち)から始まりますので、逆九九表です。この表を答えられるようにすると、柔軟に九九を使えるようになるでしょう。
ただし、歴史的には、逆九九は、九九八十一から始めて、大きい数×小さい数、同じ数×同じ数、以外は省くのが本当です。
さて、九九は、数字という言語を使用した暗記ですが、そろばんと決定的にちがうことがわかりますか?
そろばんの盤面は、約束によって、数字として読むことができますが、そろばんの玉一つ一つは、樺玉、柘植玉、黒檀玉、紫檀玉、梅玉など、どんな種類の玉であっても、そろばんの玉にすぎません。
いっぽう、電卓は数字キーに数字が記入されていますから、数字という言語の操作です。
そう考えてみますと、そろばんって、なんだか不思議な道具ですね。
わたしが小学生のころにもどってみますと、そろばんの重みや手触り、また、玉を弾くときの感触や音感がよみがえってきます。電卓とは、ぜんぜんちがう世界が広がります。
珠算式暗算でも、意識のどこかに、そろばんを弾いて練習したときの体感が残っているでしょう。
そろばん以外でも、書道、絵画、彫刻、裁縫、弓道、剣道、料理など、道具を使う作業をくりかえしていますと、言葉ではうまく表現できない体感が身についてきます。
小学生にとって、体感をともなう学習はとても重要です。
山手学院 学院長 筒井保明