引っ張り出せ! 君の可能性!
Bring Out Your Possibilities!
夏が近づいてきた。夏は成長の季節だから、夏が過ぎたとき、見違えるほど凛々しくなっている生徒たちが、いつもたくさん出てくる。夏休みという期間は、君の心がけ次第で、ものすごく重要な時間になる。
そもそも、君は、できる。君だけでなく、だれもが、かならず、できる。
そういう確信があるから、君たちに対して、わたしたちは、学習指導や進学指導に熱心になれる。もし「できない。不可能だ。It's impossible!」などと思っていたら、むなしい時間が過ぎていくだけだろう。
ひとは、「できる。可能だ。It's possible!」と思うから、挑戦できるのだ。
学習にかぎらず、スポーツでも、芸術でも、「できる」と思って取り組むのと、「できない」と思って取り組むのとでは、その結果が大きく変わってしまう。
「できる」と思って取り組むと、君の意識は集中し、学んだことをできるだけ吸収しようとする。逆に、「できない」と思って取り組むと、君の意識はぼんやりとして、学ぶことを拒もうとする。
だから、なにかに取り組むとき、「できる」と信じて、ひたすらに取り組めば、かならず自分のものになる。「できる」秘訣は、「できる」と信じることなのだ。
さて、わたしが見るかぎり、君たちの多くが、自分の可能性を自分のなかに眠らせている。いつも「自分を信じて始めれば、必ずできるようになるのに、もったいないなあ」と思う。そこで、この夏をきっかけに、君たちに「自分の力」を発見してもらい、自分の目標にむかって、大きく前進してもらおうと考えている。「引っ張り出せ! 君の可能性!」という夏のテーマは、そういう意味なのだ。
では、君の可能性を引き出すための方法は、どんなものだろうか。以前に配った『人生が変わる学び方vol.1』の各項目のポイントを実行することが基本になるけれど、その大前提として、身心ともにリラックスできるようになることが肝心要になる。
リラックスの反対は、「緊張」だ。ひとは緊張すると、不安に襲われる。たとえば、ホームではかなり強いスポーツチーム(選手)が、敵地のアウェイになると、思うように力が発揮できないのは、この「緊張」「不安」のせいである。
ひとの身体でいえば、視力が弱くなるのは眼筋の緊張に原因があるといわれるし、発声がうまくできないのは首の緊張に原因があるといわれる。ベイツ法、アレキサンダー法、フェルデンクライス法というのは、目や首や身体の緊張を解く方法でもある。
いずれにせよ、「緊張」は、君たちの学習にとって、大きな妨げだ。君たちの可能性を眠らせたままにしているのも、この「緊張」のせいかもしれない。
身体をできるだけゆるめ、心もできるだけゆるめて、じゅうぶんにリラックスしてから、学習に取り組む。この夏、毎日、これを実行するだけでも、君の眠っている可能性が目覚めるだろう。ぜひ、心がけてみてほしい。
ところで、鎌倉時代に、道元という禅僧がいた。有名な『正法眼蔵』巻七二「三昧王三昧」(三昧は、samadhiの音訳。雑念のない、心が平静な状態のこと)に、「身の結跏趺坐すべし。心の結跏趺坐すべし。身心脱落の結跏趺坐すべし」とある。結跏趺坐を伝えたのは、初祖の達磨大師。結跏趺坐で只管打坐(ひたすら坐ること)が三昧王三昧である。
身心脱落とはなにか。身体や心がなにものにもとらわれない状態である。「とらわれ」は、かならず緊張となってあらわれる。そうだとすれば、道元のいう身心脱落とは、わたしたちの言葉でいえば、身心がじゅうぶんにリラックスした状態のことだろう。
「仏法は身心脱落の只管打坐だ」などといわれると、かなり困惑するけれど、「身体と心をじゅうぶんにリラックスさせてから、ひたすら坐りなさい。それが仏法につながります」といわれると、わたしたちも取り組みやすい。
この道元禅師の例でも、リラックスの重要さがわかる。
君たちは仏法に目覚めたいのではないだろうから、じゅうぶんにリラックスしたら、さっそく学習に取りかかろう。
山手学院 学院長 筒井 保明