好きなことに取り組めば、プログラミングはうまくなる!

 MITのスクラッチ開発チームを率いるミッチェル・レズニック博士は、優秀な指導者でもあって、「プログラミングを学ぶ人たちへの10のヒント」の一つ一つが、プログラミングを学ぶ子どもたちのことを本当によくわかっているなあ、と感心するアドバイスになっています。
 先月は、一つ目の、①かんたんなことから始める。(Start Simple)を解説しました。
 今月は、二つ目の、②君が好きなことに取り組もう(Work on Things that you like)についてです。

②君が好きなことに取り組もう
 (Work on Things that you like)
 レズニック博士は、スクラッチ開発チームの同僚、ナタリー・ラスクの言葉を引用して、
 「ナタリーは、興味こそ学習に燃料を与える自然資源だ、っていうんだ。プロジェクトに取り組んでいるとき、それがチャレンジであれば、君は、より長く、より厳しく、より粘り強く、取り組もうとするだろう。ナタリーは、弟を例にして、彼は子どものときから音楽が好きだった。音楽は、楽器の演奏だけでなく、エレクトロニクスやサウンド物理学(録音、音の増幅、音楽と音の操作など)も学ばせた。学習とやる気が結びつくと、どちらにも進むのよ、とナタリーはいう。なるほど、教育は、バケツを満たすことではなくて、火を灯すことだ、とアイルランドの詩人W.B.イェーツはいっている」
 簡単にいえば、好きなことは、「やる気」を引き出すということです。
 プログラミングにかぎらず、小学生の世界は、「好きこそものの上手なれ」が真実で、「下手の横好き」はほとんどありません。なぜなら、下手なままだったら、いつのまにか、小学生はそれを投げ出してしまうからです。大人の視点で見ますと、いつまでも下手に見えるかもしれませんが、子どもの視点で見ますと、好きなことは、徐々にではあっても、まちがいなく進歩しているのです。好きなことを5年、10年と、ずっと続けてみれば、大人の視点がまちがっていて、子どもの視点が正しいことがわかります。大人は、年をとればとるほど、長いスパンでものごとを見ることが苦手になるようです。
 子どもたちが好きで取り組んでいることに対して、余計な邪魔が入りますと、子どもたちは取り組みをあきらめてしまいます。もし子どもたちのやる気にしたがって、5年、10年と、取り組みを続ければ、どんな取り組みもじゅうぶんに実を結んでいるはずです。「一人前」「自立」とは、一つの取り組みを粘り強く続けた結果の「できる自分」のことです。
 みなさんはまだ小学生ですから、プログラミングはもちろん、学習も、運動も、まだまだ何年も続けていきます。この「何年も続けること」に重要な意味があるのですが、そういう大切なことを忘れてしまった人たちは、批評家になってしまいます。理由もなく、君の取り組みを否定するような言葉は、聞いてはいけません。君が自分のやる気で取り組みを続けているならば、かならずできるようになりますし、かならず得意になります。本当に好きなことなら、むずかしいチャレンジになったとしても、君は取り組みを続けられるでしょう。
 室町時代の申楽の大家である世阿弥は、「初心忘るべからず」といいました。世阿弥のいう初心は、教育学者モンテッソーリがいう「内なる力」the inner powerのことでしょう。「自発的に始めた自分」が、ある取り組みを続けることによって、グングンと成長していきます。つまり、「初心」というのは、「これからできるようになる自分」にほかなりません。
 君は「初心」「内なる力」「できるようになる自分」を持っています。プログラミングはもちろん、どんな学習でも、やる気で取り組めば、必ずできるようになります。
 明るく、楽しく、粘り強く、プログラミングに取り組みましょう。

山手学院 学院長 筒井 保明

Lifelong Kindergarten (Mitchel Resnick) The MIT Pressから引用・訳