新しい始まり

New Beginning

 受験が終わると、つぎは卒業だ。わたしが中学生の頃は、卒業のことを英語で commencement(開始)と教わった。だから、卒業式は、commencement ceremony で、ケンブリッジ英語辞典の定義は「学位授与式」である。
 君たちは、卒業のことを英語で graduation と教わるだろう。graduation ceremony は、ケンブリッジの定義では「修了式」である。
 英語の commence は「何かを始めること」であり、graduate は「前進すること」「よりよくなること」であるから、けっきょく、卒業も終業も、つぎの新しい始まりにつながっている。ちなみに、卒業は「すべて学業を終えました」ということだから、小学生も中学生も高校生も、それぞれの学校の学習課程を修了したことになる。つまり、一つの段階を終え、つぎの段階に進むのだ。
 現在、世の中の変化が目まぐるしいけれど、じつは、君の変化だって目まぐるしい。君の意識の持ち方次第で、昨日の君と、今日の君は、まったく違う君になってしまう。
 そもそも自分って、なんだろう?
 いま、意識している自分が自分に違いないのだけれど、その自分は過去の記憶でできあがっている。「できる自分」「粘り強い自分」「やる気のある自分」を過去の記憶から引っ張り出して意識しているとき、いまの君は「できる自分」「粘り強い自分」「やる気のある自分」だ。そのままの状態で、なにかに取り組めば、必ず成果が出るだろう。逆に、「できない自分」「投げやりな自分」「やる気のない自分」を過去の記憶から引っ張り出して意識しているとき、いまの君は「できない自分」「投げやりな自分」「やる気のない自分」だ。そのままの状態で、なにかに取り組んでも、なかなか成果が出ないだろう。
 ひとは自分が意識している方向に向かうから、「できる」方向に向かえば、できるようになり、「できない」方向に向かうと、できるようにならない。たとえば、自転車を運転しているとき、わき見をすると、わき見の方向に意識をとられてしまうから危ないのだ。もし、わき見を続けたとしたら、思わぬ事故に遭い、目的地に着けないだろう。
 君が目標を持っているなら、できるだけ、わき見をしないようにしよう。自分の目標を意識して、いつも目標のほうに向かおう。いつも目標を意識するようにすれば、自然に、目標達成に必要な行動をとるようになる。「いやだな」「めんどうだな」という消極的な気持ちがわいてきたら、ちょっと目をつぶり、自分の目標を思い出して、目を開けたら、即行動を起こす。即行動を起こすことが、消極的な気持ちを打ち消す即効性のある方法だ。
 ふりかえってみれば、だれにでも、「できたこと(小さなことでもかまわない)」があるはずだ。その「できた自分」を選べば、君は、できるようになる。
 最後に、受験生へのアドバイス
 ●試験会場に余裕をもって行くこと。●試験会場に自分をなじませて、リラックスすること。●試験が始まったら、目の前の試験に集中すること。● 1 限目の試験が終わったら、それを振り返らずに、つぎの試験に向けて、リラックスすること。● 2 限目の試験に集中すること。(以後、繰り返し)
 試験会場の時間も、人生の縮図のようなものかもしれない。一つの終わりは、つぎの始まりなのだ。
 入学試験当日は、その日のことに全力で取り組もう。
 全力を尽くしたら、笑顔で学校を卒業してほしい。卒業は、新しい始まりなのだから。

山手学院 学院長 筒井 保明