ややこしい九九のはなし
むかし(といっても大正・昭和のはじめ)のそろばんの本を読んでいると、半九九、順九九、逆九九、総九九というようなことが書いてあります。
もっとむかし(江戸時代・明治時代)のそろばんの本を読むと、掛け算の九九だけでなく、割り算の九九まで出てきます。
松下村塾の吉田松陰先生は、江戸時代の人ですから、門下生に割り算の九九まで教えていましたが、あんまりややこしいので、わたしは、最後まで読まないで投げ出してしまいました。
左の図は、半九九の表で、文字どおり、九九が半分しかありません。同じ数×同じ数、小さい数×大きい数、以外の掛け算は省いてしまいます。順九九ともいいます。
逆九九というのは、この表をひっくり返して、九九八十一から始めるのですが、同じ数×同じ数、大きい数×小さい数、以外の掛け算は省いてしまいます。
これは、中国や日本のいちばん古い九九の記録が、半九九、逆九九のように書かれているからです。記述するのが、めんどうだっただけかもしれないのですが、伝統的に、中国や日本では、半九九、逆九九、でした。
半九九と逆九九を足すと、総九九になります。
現在では、ほとんどの九九の表は、総九九になっていますね。
日本の学校教育で総九九が採用されたのは、大正14年(1925年)ですので、96年前のことです。当時は、先生自体が半九九(順九九)しかできませんでしたから、苦手な先生は総九九を教えることにずいぶん抵抗があったようです。
そのうえ、たとえば、三五十五(3×5=15)のうち、どちらが「かけられる数」で、どちらが「かける数」か、で議論がわかれていました。3の5倍は15、と考えるか、3倍の5は15、と考えるか、ということです。九九も意外とややこしいものです。
ところで、当時の教師用の解説書には、九九の呼び声として、「二一二」「二二四」と呼べ、と書かれていました。
これに対して、そろばんの教師たちが、「にいちに、ににし」では覚えにくい。そろばんで覚えるように、二一ガ二、二二ンガ四と唱えるほうが記憶しやすい」と反対しました。
また、「ガ」が十の位にあたるので、そろばんの珠の置きまちがえがなくなると主張しました。
たとえば、
三一ガ三 3×1「ガ三」(03)
三二ガ六 3×2「ガ六」(06)
三三ガ九 3×3「ガ九」(09)
三四十二 3×4「十二」(12)
三五十五 3×5「十五」(15)
九九の答えが二桁になるとき、「ガ」が入らないことに気がつきましたか?
九九の呼び声に「ガ」が残ったのは、そろばんの功績の一つでしょう。
なにしろ、当時の文部省は、「ガ」を捨てようとしていたのですから。
みなさんは、まず総九九をしっかりと自分のものにしてください。
山手学院 学院長 筒井保明