Archive List for 学院長

学院長からのメッセージ 2023 November

音読の価値 The Value of Reading Aloud.  街の人混みのなかに入ると、どこからか、日本語以外の言語の音が聞こえてくる。英語や中国語をはじめとして、韓国語やネパール語やベトナム語やスペイン語などが、とつぜん、耳に飛び込んでくる。わたしが子どものころの日常に、こんなに多くの言語は存在しなかった。  当然、知らない言語は、たんなる音の連続でしかない。言語の学習とは、この音の連続を切り分けて、それぞれの音が表現する意味を組み立てて理解することである。「英語は読めるけど、聞いたり、話したりできない」という大人が多いけれど、これは学習方法をまちがえてしまった結果だ。文字は、音の連続を記録するためのものだから、まず音があって、文字がある。じっさい、文字を持たない言語はあっても、音声を持たない自然言語はない。  多くの国の教育が、「音読」を重要な学習に位置付けているのは、言語の本質が音声であるからだ。  前回、英語を聞くことの重要性を強調した。今回は、音読に関して、説明してみよう。  聞かせる対象がいる場合の音読をとくに「読み聞かせ」というけれど、もちろん「読み聞かせ」も音読だ。英語では、読み聞かせも、音読も、Reading aloud である。また、「読」という漢字自体、「声を出す」が本義である。また、黙読が普及するまで、書物は基本的に「声に出して読まれるもの」であった。古事記も、源氏物語も、平家物語も、本来、耳で聞かれるための書物である。  アメリカでは、2001 年、ジョージ・W・ブッシュ大統領のとき、No Child Left Behind Act(落ちこぼれを出さない議決)が下院議会で決まり、「音読は唯一最も重要な学習行動」Reading aloud is the single most important activity という考えのもと、読み聞かせ・音読・読書に力を入れることになった。同時期に、日本でも読書教育に力を入れるようになった。  音読の効果の顕著な例として、  音読は記憶を強化する。(たとえば、オーストラリアの実験で、10 歳の子どもたちを対象に、言葉の認知度を調べると、音読 87%、黙読 70%。67 ~ 88 歳の大人の場合、言葉を思い出せる度合いは、音読 27%、黙読 10%、認知度は音読80%、黙読 60%)  わたしが、君たちに「英語に限らず、国語でも、社会でも、理科でも、単語や用語や文を声に出してから書くこと」を強く勧めるのは、口や手を動かすために脳の運動野を使うので、学習がアクティブになるからだ。(したがって、認知度も、思い出せる度合いも上がる)  ある学者は、音読による記憶強化を「生産効果 production eff ect」と呼ぶ。そして、質問に答えて(ワーク学習など)言葉を想起する記憶強化を「生成効果 generation eff ect」、視覚や想像に結びつける記憶強化を「実演効果 enactmenteff ect」と呼ぶ。  もっとも強いのは、音読の生産効果であるが、じつは「聞くこと」に集中することもかなり効果があることがわかっている。たとえば、認知症の方に、「読み聞かせ」を繰り返していると、記憶テストの成績が改善されていくそうだ。この結果を受けて、「音読は恩恵をもたらすのに、どうして、ひとは黙読に替えてしまったのだろう?」といっているが、もちろん、黙読にも価値がある。黙読がもたらすものは、スピードだ。なにを目的にするかで、読み方が変わる。音読は、「言うこと/聞くこと saying/listening」であり、黙読は「見ること seeing」である。  君は、なにを目的にしているだろうか? 君が記憶強化を必要とするなら、音読の生産効果を活用しよう! 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2023 October

君は英語を身につけたいか? Do you want to learn English?   英語を身につけるための最初の条件は、「君が英語を身につけたいと本気で思っていること」である。君が「身につけたい(Want to)」と思って学ぶなら、その言語は必ず身につくけれど、「しかたがない(Have to)」と思って学ぶなら、その言語はなかなか身につかない。 有名なポリグロット(多言語話者)のカトー・ロンブ(Kató Lomb 1909-2003)は、言語学習のカギは、まず「興味 interest」と断言している。  カトーの言語学習の方程式は、  わたしたち日本人の多くが、比較的に英語を苦手にしている理由は、羞恥心や臆病による抑制が大きすぎることなのだ。言語習得は、聞いたことに対して、即座に自分の口で発語・発話することが秘訣であるが、羞恥心や臆病によって、わたしたちは、発語・発話をとまどってしまう。つまり、英語を聞いた「そのとき」こそ、学習のチャンスなのに、わたしたちは恥ずかしがってチャンスを逃してしまう。言語学習に恥じらいは禁物だ。 ところで、わたしたちの英語力にもっとも足りないのが「聞く能力」。小さいころを思い出せば、「いきなり話しました」とか「いきなり読みました」とか「いきなり書きました」などという人は存在しない。聞けるから、話せるようになり、話せるから、読めるようになり、読めるから、書けるようになったのだ。  したがって、まず、「一生懸命に何度も聞くこと」だ。聞き流さずに、音声を聞き、音声のつながりを聞く。現在は、Sunshine(開隆堂)や NEW HORIZON(東京書籍)のような教科書でも、必要な英文を選び、スマートフォンやタブレットなどを使って、何度でも繰り返し聞くことができる。また、スピード調整も できるので、ゆっくり聞くことも、はやく聞くこともできる。本来、単語の意味は文脈のなかで決定するので、日本語で丸暗記するのではなく、文の中でイメージや気持ちでわかるようなれば、使える英語になる。  ネイティブスピーカーの英語を何度も聞いておくことのメリットは、英語を受け入れる下地を作ることに加えて、自然な英語の発音やイントネーションが記憶に残るので、まちがった英語の発音やイントネーションに接しても、わるい影響を受けなくなることだ。  聞くときの順番は、 ① まず、テキストを見ないで、何度も繰り返して聞く。 ② 聞いた音声をテキストで確認する。(このとき、辞書を引いてもよい) ③ 聞き取った音声を繰り返し口に出して発語・発話する。  ②と③は、逆でもよいが、①のテキストを見ないで聞く、ということが重要である。どんな言語も、音がつながって、音のかたまりをつくるので、音をしっかりと聞いておかないと、話すことも読むこともむずかしくなってしまう。  聞くことができれば、話せるようになる。話せるようになれば、読めるようになる。読めるようになれば、書けるようになる。わたしたちが日本語を覚えたように、すべての言語がおなじ順序によって学習される。そして、これがいちばん効率的な学習方法なのだ。  さあ、教科書の英語を繰り返し何度も聞いてみよう。 山手学院 学院長 筒井 保明

学院長からのメッセージ 2023 August

テストの結果は、つぎのステップのためのベンチマーク Exam results are benchmarks for the next step.  不用意に子どもたちを比較することは、子どもたちの自信を失わせ、子どもたちの能力を衰退させてしまう。テストの結果で教室内の席順を決めている塾があるようだが、子どもたちに対するネガティブな強い影響を考えると、かなり危ないことをしている。もし、その塾の責任者が「後方に座ることになった子どもの奮起を促うながすため」のような理由を述べたとしたら、子どもたちの特性をまったく理解していない。  そもそも、テストの結果で席順を決めることは、毎回、子どもたちを比較し、優位と劣位を決めていることになる。いつも優位にある子どもは、誤った優越感を抱き、いつも劣位にある子どもは、誤った劣等感を抱くことになる。親の行動規範として、「不用意に、自分の子どもを他の子どもたちと比較してはいけない」という戒いましめがあるように、「劣等感を植え付けられた」子どもは、奮起どころか、立ち直れなくなってしまう。  かつての通知表評定は、相対評価といって、完全に比較であった。どんなに努力していても、31%の生徒には、2や1の評定がついていた。2や1の評定、比較による劣位であって、子どもの能力を正しく評価したものではない。したがって、現在の通知表評定は、相対評価ではなくなった。(生徒全員ができるクラスでも、相対評価では、2や1の評定がついてしまうのだから、おかしな評価方法だ)  多くの場合、比較されることによって、大半の子どもたちは、否定的な自己評価をしてしまう。他の子どもたちとの比較は、自分の能力を発揮するための動機づけにならないばかりか、比較されることに恐怖を感じるようになった子どもたちは、将来的に、行動や発達に問題が生じるかもしれない。そうなった子どもたちの才能は閉じてしまい、子どもたちの可能性は失われてしまうかもしれない。  テストの結果は、入学者を選抜する入学試験などを除き、基本的に、つぎのステップのためのベンチマークである。したがって、「誰かよりもよかった、誰かよりも悪かった」と、誰かと比較して一喜一憂するものではなく、「自分の目標点よりもよかった、自分の目標点よりも悪かった」と、今回の結果を次のステップのための基準点・参照点として使うのが本当だ。誰かと比べる必要など、まったく、ない。  たとえば、通知表評定や偏差値による相談を実施しない私立中学校や私立高校に、合格の目安をたずねてみれば、「過去の入試問題であれば、合計で6 割以上、得点できれば合格できます」とか「当日の平均点にもよりますが、だいだい7 割得点できれば、合格できるでしょう」のような答えが返ってくるだろう。つまり、志望校の入試問題で得点できることが目標になるのであって、「誰かよりもいい得点をとること」では、けっして、ない。各種検定試験や各種資格試験も、合格するために必要なのは得点である。  これから、子どもたち一人ひとりが、「自立した個人」として、成長していく。とくに、成長の速さや度合いが大きく異なる小学生には、十分な配慮が必要だ。不用意な比較は、彼らから自分への信頼(自信)を失わせ、自立をむずかしくしてしまう。  今回は、ほとんど保護者の視点になってしまったが、君たち自身もおなじことである。自分を他の人と比べてはいけない。自分は自分で、自分の目標は自分の目標なのだ。(他の人の結果や目標を参考程度にするのはかまわないけれど)  自分のテストの結果をベンチマークにして、つぎの目標を定めよう。そして、自分の目標を定めたら、さっそく、その目標を達成するために必要な取り組みを始めよう! 山手学院 学院長 筒井 保明